18人が本棚に入れています
本棚に追加
九.
やらなければ僕も殺されるのだろう。
僕は受け取った大鉈を大きく振りかぶった。
狩りを何度も繰り返してきたせいか、目隠しをされて後ろ手に縛られ跪き、声も無く震えている兵士の姿にも、不思議と何も感じない。
だけど、なんだろう、それとは別の、違和感、矛盾、不快感。
文明に逆らうとか言ってるくせに、なんでこいつらは、気象制御船のおかげで荒天を免れているこの湾で、ぬくぬくと平穏を謳歌してやがんだ?
それにこの状況。
こんなのは、こんなことは……。
僕は大鉈を足元に投げ捨てて、上級真人たちの方へと振り返った。
「こんなのは、違います。
真人とも、生きるってこととも違うと思います。
これは『狩り』と違って、生きるために殺すんじゃない、殺すために殺すだけです。
こんなのは『人間』のやるべきことじゃありません。
だから僕にはできません」
これでもう殺されるのだろうけど、僕は最後まで僕という『人間』として生きて死ぬ道を選ぼうと思った。
そんな僕の真っ直ぐな目に苛ついた様子の一人が、無言で腰から大鉈を抜いて構えながら、驚いたような表情を浮かべているコウを押しのけて、僕の前に立った。
「この堕人が!!」
大鉈が振り下ろされ、僕は静かに目を閉じた。
だが、その時。
突然に海が沸騰し始め、盛り上がった海面が激しい津波のように浜辺へと押し寄せた。
そいつを含めた上級真人たちが、声を上げる間もなく飲み込まれ、一瞬で煮え上がり波に消えた。
さらに湾が、海底から直上、天に向けて一直線に吹き出し始めた猛烈な嵐により荒れ狂う。
最初のコメントを投稿しよう!