明るい彼

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私は震える手で、国語の教科書を手にする。 そうだ…きっと、朝の登校中、私の気付かぬうちに、鞄から教科書が落ちたとか…それで、気付いた誰かがいちいち教室に届けるのは面倒で、とりあえず私と思われる下駄箱に入れたとか…?  どうやら人間の脳内は、自分の身を守ろうとなんとか一度は足掻くようにできているらしい…私はため息をつく。 もういい…とりあえず持って帰ろう… これで明日の授業のことを不安に思わずに済む…綺麗な身なりの佐藤さんの舌打ちは、なんだか少し(こた)えた。だからもう、なるべく借りを作りたくはなかった。 「ただいま!」玄関で靴を揃えて、リビングに向かう。 「ああ!おかえり…!今日、放課後何かあったの…?友達と約束? いつもより随分遅いから、ちょっと心配してた…もう少ししたら学校に電話しようかと思ってたとこよ。」 過保護な母が、キッチンから私に声をかける。 「おまえさ…新しいガッコ、大丈夫なん…?おまえ、根が暗いし本ばっか読んでるからさ…友達とかできてねーんじゃねえの…?本もほどほどにしとけよ…?」 3つ上の兄がソファーでポテチをつまみつつテレビを観ながら私に投げかける言葉。根暗・本好き…今までどの学校でも、そんな風に言われてきたから、正直今更、兄に反論は出来ない。 「良いの…私には本さえあればいい。友達も、ぼちぼちできてるから大丈夫」 ぼちぼちも何も、いまだに一人として、友達と呼べる人はいない。私はつい、嘘をついてしまう…ある意味、見栄のようなもの…心配だってかけたくない。 「ふ~ん …ならいいけどさ… 」兄はそれ以上聞いてくることはなく、私は「お母さん、私、夕飯、少し後でいいや…ちょっと寝る…」 そう声をかけ、2階に上がる。 今日はなんだか疲れた… 疲れてはいたけど、私は鞄から道具を取り出し、明日の時間割の準備を始める。どうしてもこういう性分。後回しにできない性格なのだ…。 明日も国語がある…私はふと、何気なく中を開く。 そこには… ノートの最後のページには…              え…何、これ…               根暗女 …  ウザイ…  キモイ… 前の学校へ帰れ… ほかにも、…わざわざ  口にも出したくない言葉が、鉛筆で殴り書きされていた…。              え … …  ほらね…やっぱり私が、忘れ物したわけじゃ、なかったんだ…     私は冷えた頭で、そんな風に思いながらも、         もう一度、そのページを凝視した…。  
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