接触

2/9
前へ
/70ページ
次へ
私は驚きで、瞬時に現実世界に戻る。 「え… …」 駄目だ…緊張で、声が掠れる…。 「あのさ…それ…その本、何… 、読んでんの…?」 斗真君が…私が開いたままの本を指さして、私に問う。 彼の周りには誰もいない… 食堂に一緒に連れ立って行った荒川君たちも、まだ戻って来てはいないようだ…  「あ…あの…これは… 『別れの…か…か…形…』っていう本…です…」 緊張で震えつつも…なんとか、答えることができた。 「別れの形…?へえ…初めて聞いた…面白いん…?それ…」 斗真君が続ける。 「う…うん…まだ途中だけど…、さ…先の展開があんまり読めなくって… けっけっ…、結…構…面白い…です」 「へえ…そうなんだ… …本、好きなの…?」また、聞かれる。 「は…はい…好き…です…ものすごく、好きで…よく、読みます…」 ドキドキドキドキ… 授業以外で…久々に人とまともに話した気がする…しかも、斗真君… なぜか、敬語になってしまう。 「そっか… 実は俺も…めっちゃ本、好きなんだ…良かったらさ…面白い本あったら、時々、教えてくんねえ…?」 斗真君が私を真っすぐに見下ろし、 転入初日の挨拶の時みたいにニカっと…太陽のような明るさで笑う…。 綺麗な目… 片耳のピアスがキラリと眩しく光る…。 「う…うん…私…私で良かったら…いつでも…」鼓動が異常に早い… 「やった。サンキュー…!じゃ、早速今日、帰る前に図書館、案内してくんねえ…?すぐにでも本借りたいんだけど、システムとか全然わかんなくて…」 「え!!? きょ…今日… !?」 …心の準備が…え…え…? 私が戸惑っているのを感じ取ったらしく、 「やっぱ急過ぎ…?駄目かぁ …ごめん、…じゃあさ、また今度でいいから…」 斗真君が遠慮したのか申し出を取り下げようとする…。 「あ…あの…今日…でも、いいです…よ…別に、帰りは用もないので…」 それは本当だった…帰宅部だし、時々図書館に寄って帰ることもしばしば…別に急いで帰る必要もない‥すぐにそう答えると、 「マジか!やった!!ラッキー!!じゃ、帰りによろしくぅ…!」 「は…はい…また…」  弾けるような笑顔を私に向けた後…再び、斗真君が廊下に消えていく…。 信じられない…     私はその日、珍しく、本の続きを読む気にもならず…      パタンと…本を閉じた…。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加