明るい彼

4/8
前へ
/70ページ
次へ
あれ…あれ… ない…国語の教科書が、ない… 昨日の夜、確かに鞄に入れた気がする…。 そもそも私は、忘れ物なんてしたことないし… え… ちょっと待って、どうしよう…  ない…やっぱりない… 「では… えっと…安達さん、17ページの4行目から読んでみてください…あら…安達さん、教科書は…?忘れたの?」 「… あ…はい、ない…みたいです。すみません…」 忘れたとは言いたくない…   うん、…やっぱり私、絶対に、鞄に入れた… 「じゃあ…そうね、隣の佐藤さん、机くっつけて、ちょっと貸してあげて…」 先生の声。 「はーい…」 右隣にいる佐藤さんがガタガタと机を移動してきて、私の横にくっつけてくれる。「あ…ありが…」…とう、と、小声で言いかけると、 「チッ… めんどくさ…」皆には聞こえないほどの小声で、彼女の口から…確かにそう聞こえた。        私の胸に、チクリと突き刺さる、言葉… 「ごめんなさい…借ります…」 私はペコリとお辞儀をして、彼女の教科書を開いて立ち上がる。 「… … …」 ああ…教科書はどこだろう… もしかしてどこかに落とした…? 私の勘違い…かな…いやでも、絶対入れた… ああ… なんで…? 私は暗い感情を抑えながらも、淡々と、朗読を続けた。  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加