244人が本棚に入れています
本棚に追加
私の配属先は、総務課広報部。
本当は商品開発や企画に携わりたかったけど、この会社に入れただけでも、私にとっては奇跡に近い。
だから最初から、前向きに頑張ろうと意気込んでいた。
私は杉崎さんともう1人、石田さんという男性二名のもとで、最初は2人の補佐的業務をこなしながら、少しずつ仕事を覚えていくように、直属の主任に説明を受けた。
あとの歓迎会でわかったことだけど、杉崎さんの年齢は35歳で、石田さんは40歳だとか…23の私から見ると10歳以上も年齢が上の、いわゆるオジサンと言われる世代…
それでも…オジサンというキーワードは、石田さんには完全に当てはまるものの、杉崎さんとは…全く一致しないものだった。
石田さんはあまり外見にはこだわらないオープンな性格で…わたしが配属後に一番驚いた石田さんのちょっと…ううん、かなり引いてしまった行動は、職場の自分のデスクで、爪を切っていたこと。他にも色々…。つまり、普通の恥じらいがある人なら家でするようなお手入れを…職場でごく普通にする人だった。
つまり全く、周りの目を気にしないタイプなのだ。
すごいのは、そんな石田さんに対して杉崎さんが普通に接していて、しかも石田さんのそれらの行動をごく普通にイジること。
「石田さん!…水無月さんが、かなり驚いて見てますよ~。そんなこと…そろそろもう、家でやってきてくださいよ~…全く…こっちに、絶対飛ばさないでくださいよ…」笑いながらも、しっかりと言うことは、言う。
でも、それがいつものことなのか、当の石田さんは杉崎さんの話を右から左に受け流した素振りで、「あー、あーん?…」とそれ以上返事はせずに、あくまでマイペースに爪のお手入れを続ける。
変な人たち…。
でも…楽しそう。
仕事は本当にわからないことだらけだったけど、杉崎さんが同じ係にいてくれるだけで、私はなぜかほっとしていた。希望の部署ではないけれど、人的な配置においては、他の同期よりも恵まれているように私には思えた。
杉崎さんは、とにかくよく笑う。冷たそうに見えるほどに整った綺麗な顔を、くしゃっとさせて…。
にこやかに…本当に楽しそうに。
どんなに仕事が忙しい時でも、それを周りに感じさせないほどに。
石田さんいじりも楽しそうだし、
私が話すような、特にオチもないなんでもないような話も、ニコニコした表情で聞いてくれるのだ。
入社して2週間ほどして開催された最初の歓迎会で、彼が隣の席になった時も、人見知りの私は、それだけでなんとなく安心した。
私には5つ上の姉しかいないせいか…本当に…優しいお兄ちゃんが初めてできたような気がして、すぐに人として好きになった。
その時は、あくまで、職場の先輩として…。
その歓迎会の席でのことも、
いまだに忘れられない。
最初のコメントを投稿しよう!