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出会い
「…温泉、いいね…行きたいな…今度の休みに…デート…しよっか…」
自宅近くのいつもの居酒屋で、
杉崎さんが…私にほろ酔いの表情を向けながら、日本酒を片手に…私に…尋ねてくる。
「…え…、でも…」
今…私に言った…?デートってなに…うそ…どうしちゃったの…杉崎さん…?
…私は戸惑いの気持ちを隠せない…。
杉崎さんには…長く付き合っている少し年下の彼女がいる。その彼女は、私も知っている職場の先輩にあたる女性。
そして同様、私にも…高校の頃から付き合っている、同級生の彼氏がいる…。
杉崎さんと私は、それぞれ遠距離恋愛中で…相手は遠い九州の空の下…。
…お互いに彼氏、彼女持ち…だけど、
平日の夜、普段はお互いに独りで寂しい身だから…近所で時々、食事をしている仲に…過ぎない…。
でも…その二人で…お互いにどんな立場で休みの日に…温泉、なんて行けるの…。
付き合ってもいない男女が、職場の同僚とはいえ、二人で温泉に…なんて、行けるはずもない…
でも…私は…私の本心は…「行きたい」…本当はそう…返事をしたかった…。
杉崎さんと一緒なら…贅沢は言わない…
なにも、温泉…じゃなくてもいいから…
一緒にご飯に行ったり…ドライブしたり…今みたいにお酒を飲みに行ったり…色々…してみたい。
でも…バカな私は…
ううん…人として、一応…ちゃんとした私は…こう、答えていた…。
「…杉崎さん…何…言ってるんですか…?酔っちゃいました…?…そんなこと言ったら…彼女さんに、怒られちゃいますよ、叩かれますよ…?」…冗談のように、彼に答える。
つまり…彼の酔いにまかせた誘いを…交わした…流した…拒否った…
もう、どれでもいい…
私の正直な…本当はだらしのない、みだらな回答を…
彼に伝えることが出来なかったんだから、もうどう解釈されても一緒だ…。
杉崎さんは、まるで我に返ったように、何事もなかったかのように…こう言った。
「そう…だね…うん、俺…多分、ぶっ殺されるわ…怖い怖い…ごめん…ちょっと飲みすぎたかも…!冗談だから、忘れて…」だって。
わかりました。
今のあなたの発言は、綺麗さっぱり、忘れます…
なんて…嘘…。
そんなこと、出来るはずがない…
その日、彼と別れてから…私の頭の中に…おかしいほどに…みだらでいやらしい気持ちが…くすぶっていた…。
もしも、杉崎さんと…普通の彼氏と彼女のように、普通にデートができたら…
温泉旅行に行けたら…キスと‥ハグと…温泉…と…その後…抱かれ…たり…する…のかな…
もしも私が…あの時、「はい、温泉いいですね…行きます。」…なんて可愛く答えていたら…
彼氏を裏切ることになったとしても…そう、言っていたら…きっと私は…彼と…。
それほどに…それほどに私の中に…彼が…いた
…遠距離恋愛中の「彼」ではなく、杉崎修哉さんが…
一回りほど年上の、まるでお兄さんのような…男性…なのに…彼は大人で…大人なのに可愛くて…
私は彼が好き…
どうしようもなく、好きなのだ…
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