愛しき人

10/10
前へ
/141ページ
次へ
……武家屋敷は、全焼した。 あたしは、瓦礫の山となった母屋の前に立ち尽くした。 結局、翔之介さんは、見つからなかった。 あたしは、自分の部屋があった辺りに、しゃがみ込んだ。 はやてが、近くの瓦礫の山に向かって鳴いた。 あたしは、そこに、焼け焦げている見慣れた手拭いを見つけた。 翔之介さんの布団だった。 あたしは、その焼け焦げた手拭いを抱き締めて、号泣した。 もう、二度と、あの優しい、誠実な、凛々しい、翔之介さんには、会えないのだ。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加