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京が俺の住むマンションの隣に越してきたのは、まだ小学校に入学もしていない頃だった。
「あら、うちの子と同い年だわ」
俺と京は互いに自身の母親越しに相手の存在を見つめあった。
小柄で細身の京は真っ黒な髪に透き通るような白い肌をしていて、丸くビー玉のような瞳がやけに俺の心に残った。
京の家は父親が長期出張が多く、母親は看護師だった。
かと言って、京に対する愛情が浅いわけではなく、父親はわずかな休日を使って帰宅しては家族の時間を設け、母親も夜勤をこなしながらも、優先順位は常に京が一番だった。
他の家庭と等しく、いや、むしろ溺愛に近かった。
「京くん、明日の朝はパンとご飯どっちがいい?」
俺の母親の問いに、お風呂上がりの京は上気した頬を緩ませて笑う。
その頬を指先で突いて、それから、両手で包み込んだら、京はまだ笑っているのだろうか。
「まひるが好きな方がいい」
するりと溢れた京の言葉に、俺の心は満ち満ちとしていた。
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