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「着替えたら真昼の部屋行ってもいい?」
袋の中を覗き込みながら京が言う。ようやく俺の名前が俺の元へ戻ってくる。
京はその残酷さに気づいているのか、否か。
京が俺を名乗る時、その横にいる俺は何者でもない。京に名を呼んでもらえない存在など、死と同義だ。
「また俺の部屋で飲むのかよ」
「なんだかんだ真昼の部屋がいちばん落ち着くんだもん」
「…ったく、わかったよ。」
呆れたように笑って答えれば、京は「やった」なんて跳ねるような声で笑う。上向きに伸びる睫毛も、男にしては細い首も、膨らむ涙袋も。
全部閉じ込めて、瓶の中で飾って置ければいいのに。俺が愛でる時だけ。俺以外は誰も京を見ることはできない。
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