朝まだきのキャンバス

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月明かりに照らされて、穏やかな寝息を立てる夜の街。街中が静寂に包まれる中、丘の上の屋敷の一室には、まだ微かに明かりが灯っていた。部屋の中には、長いブロンドのおさげを揺らして浮き足立った少女が1人。 彼女の名はエリー。優しくも過保護な両親の元で暮らしていた彼女は、自由な下町の暮らしに想いを馳せていた。箱入り娘はくつくつと笑いながら、自室のドアをゆっくりと開く。 「ママとパパが知ったら、きっと泡を吹いて倒れてしまうわね。」 床の軋む音に気をつけながら廊下を渡り終えると、そっと入り口のドアを開いた。夜の澄んだ空気が流れ込み、少女の呼吸を深くする。1ヶ月程前から、彼女は密かに毎晩屋敷を抜け出していた。 一呼吸置いて、今日の目的を思い出す。今日も広場の噴水の所に行こう。秘密の散歩で出会った、秘密の友だちに会うために。 「待っててね、おじ様。」 鼻歌混じりで習いたてのワルツのステップを踏み、下町の広場に向けて、足取り軽く歩き出した。
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