レイン 

1/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

レイン 

あんなに可愛かったのに。 拾ったときはてっきり犬だと思ったのだ。  車に跳ねられたのか、ケガをして道端にうずくまって震えていたレインを、放っておけなくて車に乗せたのが二人の出会いだった。 痩せて、毛並みにツヤはなく、鼻は乾いてぐったりしていた。 馴染みの動物病院へ運びこんでケガの治療をしてもらい、看病の仕方を教わった。 今夜がヤマだと獣医師は深刻な顔で告げ、覚悟を決めて家に連れ帰った。 ミルクも、お湯でふやかしたドッグフードも水さえも受け付けなかったレインを、陽彦は胸に抱いて温め、徹夜で介抱した。 明け方、衰弱したレインの体温が急激に下がった。 脈が弱り、呼吸が間遠になってゆく。 「頑張れ」  陽彦の呼びかけに、レインはうっすらと眼を開いた。 琥珀色の虹彩に映るのは、小さな部屋と陽彦の心細げな泣き顔。 「死ぬなよ、頑張れよ」 まだこんなに小さいのに。 美味しいものも、楽しいこともなにも経験していないのに。 憐れみに胸が締め付けられ、陽彦は思わずレインを抱き上げて頬に押し付けた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!