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レイン
あんなに可愛かったのに。
拾ったときはてっきり犬だと思ったのだ。
車に跳ねられたのか、ケガをして道端にうずくまって震えていたレインを、放っておけなくて車に乗せたのが二人の出会いだった。
痩せて、毛並みにツヤはなく、鼻は乾いてぐったりしていた。
馴染みの動物病院へ運びこんでケガの治療をしてもらい、看病の仕方を教わった。
今夜がヤマだと獣医師は深刻な顔で告げ、覚悟を決めて家に連れ帰った。
ミルクも、お湯でふやかしたドッグフードも水さえも受け付けなかったレインを、陽彦は胸に抱いて温め、徹夜で介抱した。
明け方、衰弱したレインの体温が急激に下がった。
脈が弱り、呼吸が間遠になってゆく。
「頑張れ」
陽彦の呼びかけに、レインはうっすらと眼を開いた。
琥珀色の虹彩に映るのは、小さな部屋と陽彦の心細げな泣き顔。
「死ぬなよ、頑張れよ」
まだこんなに小さいのに。
美味しいものも、楽しいこともなにも経験していないのに。
憐れみに胸が締め付けられ、陽彦は思わずレインを抱き上げて頬に押し付けた。
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