泣いている君が好き

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「あ…えっ、…すっ…すみません…今すぐ…!」 ソイツは膝に載せていた荷物をわしづかみにして、慌てて席を立つ。 俺にお辞儀をして、立ち去ろうとして…通路の段差につまづいて…転びかけ「あっ…!」と小さく叫ぶ。          …大丈夫なんか…この人… ちょっと、笑いそうになるけど、俺はなんとかこらえる。 「…っ…!あ…そうだ…眼鏡…っ…あ、れ…あれ…?」 わたわた眼鏡を探す姿に、なんだか、のび〇みたいだな…と思いつつ、座席を見ると、ドリンクホルダーに眼鏡が入っているのに気付く。 俺は「ありましたよ…」と声をかけ、すぐに眼鏡を手にして、ソイツの前に差し出す…つもりが…俺ってば…初対面の…しかも、男相手に…一体、何、やってんだろう… フレーム部分をもって、両手でソイツの耳にかけてやって… 「どうぞ…気を付けて、帰ってください…」だって… … 誰だ誰だ誰だ…おまえ…いつから紳士キャラ、になった…? ソイツは涙目のまま、にこっと俺に笑いかけ、 「あ、有り難うございます…僕、メガネないと、全然見えなくって…」    …今、コイツ、自分のこと…僕…って言ったか…?     僕…って響き、なんか…滅茶苦茶…可愛いんですけど… んー……俺ってどっか、変になっちゃった…のかな…      「あ…いえ、全然、では…」 そう、俺はなんとか冷静に言って、その日ソイツと別れた。 思い切って連絡先を…聞けばよかった…俺の後悔…は、そこだった。 いやいや、野郎相手に…何、考えてんだ…俺のその後悔を…俺の理性が、すぐに打ち消したのだけど… 結局俺はそいつを…ほどなくして捕獲…いや、発見することになる…。
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