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綾瀬くんは、まるで俺がOKすることを考えていなかったかのように、目をまん丸に見開いた。
俺はそれがおかしくて、普段される分を全部仕返ししてやりたくなる。
「司! つーちゃん、つかさくん! どれがいい?」
「……普通に呼び捨てで。つーちゃんは、絶対却下」
「もしかして、親に呼ばれてた?」
「ばっ――、違いますよ!」
「ビンゴだ!」
司の耳が、ぽろっと取れそうなほど熟れて赤くなる。ろくな親じゃないとか言っていたけど、もしかしたら逆に大事に育てられすぎていたのかもしれない。
とびきりわがままで可愛い子供の姿の彼を想像すると、思わず口角が上がった。
司。これからは先輩とも仕事仲間とも違う、二十七年間、大切に育んできた名前で君を呼ぶ。
低血圧の朝の顔から、情熱的な夜の顔まで、全部俺が独り占めだ。
「あの……俺も、律己さんって呼んでもいいですか?」
「うん、呼んでほしい!」
はしゃいでいると、司の声色が変わった。
「実は今日はもう一個、付き合ってほしいことがあるんですけど」
さっきまで忙しなく動揺していた二つの目が、しっかり俺を見据えている。彼がその顔になるのは決まって、悪巧みをしている時だ。分かっていても飛び込んでしまうのは、やっぱり抗えない俺の性だろう。
「怖いけど、何?」
「そのまままっすぐ、俺の方を向いてください」
一枚のガラスを挟んで、じっとに見下される。
「今着てる服、一枚ずつ脱いでもらっていいですか」
「――ばかっ! 何言ってんだよ。ここ、仕事場!」
「忘れちゃったんですか。スタジオでしようって言いましたよね」
確かに、前回の最中にそんなことを言われたような気はするが、了承した覚えは全くない。
「絶対やだ!」
「大丈夫。俺以外、誰も見てません」
「そういう問題じゃなくて……」
スタジオでするなんてありえない。声優にとっての聖域を汚すような行為だ。でも、やっと恋人になれた司と、今すぐ触れ合いたいという気持ちが膨らんでいるのも事実だから、強く拒めない。
「律己さん。いいんですか? 俺は音監ですよ」
決めかねているところに、名前呼びと監督命令のダブルパンチが突き刺さる。ここで断れるような俺だったら、そもそもこんな関係にはなっていない。
ああ、もう知るか。俺は返事の代わりにセーターとシャツを脱いで、目の前の椅子に置いた。
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