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強い絆の星座達
友梨と蓮が最初に屋上で話してから三ヶ月となるこの日、ついに蓮との約束の日を迎えた。
「向島くん…ちょっと良い?」
休み時間、友梨は銀一を教室の外へ連れ出し階段の踊り場の方へ引っ張って行った。
「…っっ!」
ちょうどその光景を、またもや蓮がたまたま目撃してしまった。
"何で…友梨が…アイツを…"
よりによって友梨との約束の日であるこのタイミングで見たツーショットに底知れぬ不安が蓮を襲った。
「向島くん…ごめんなさいッ!」
友梨は開口一番に謝った。
銀一は驚いた顔をしながら友梨を見つめた。
「私…私はやっぱり蓮の事が好きなの…。だから…向島くんの気持ちには応えられそうにない。向島くんには今まで、無神経に期待させるようなことしてしまって…本当にごめん…」
友梨は申し訳なさそうに頭を下げた。
「花城さん…頭を上げて。いいよ、俺は大丈夫だから。むしろ俺の方こそ、この前は…ごめん…」
銀一は静かで落ちついた口調で言いながら俯いた。
友梨はゆっくり顔を上げるとすかさず首を横に振った。
「俺…あの時思ったんだよ。花城さんと久岡くんの姿を見て」
銀一は気の抜けた柔らかい表情で言った。
友梨は銀一を静かに見つめた。
「花城さんと久岡くんの間に俺が入る余地なんてないな…って。二人は何だか強い絆みたいなもので結ばれてるような気がした」
銀一はそう言うと少し笑みを溢した。
「え…」
友梨は驚いた表情をした。
「あの時、俺は完全に諦めがついたんだよ。だから…もう俺の事は気にしなくていいよ」
銀一は優しい表情で友梨を見ながら言った。
「向島くん…」
友梨は銀一を見つめながら静かに涙を溢した。
「…っ!!花城さんっっ」
銀一は涙を流す友梨に驚きながらあたふたした。
「向島くん…本当にごめん…。それと…ありがとう…」
友梨は言葉を振り絞るように呟いた。
銀一は友梨の言葉を聞き微笑みながら言った。
「こちらこそ、ありがとう…。真剣に俺とも向き合ってくれて。それに、花城さんのおかげで俺は変われたんだ。これからも変わらず…友達として、よろしく」
友梨は銀一の言葉にさらに涙を流しながら、必死に頷いた。
--
その日の放課後、友梨は蓮との約束通り屋上へとやって来た。
屋上の鍵はすでに開いていた。
友梨はゆっくり扉を開けると、蓮が遠くの景色を観ながら立っていた。
「蓮…」
友梨が静かに口を開く。
蓮はゆっくり振り向いた。
蓮の顔は若干強張っており緊張している様子が伝わってくる。
「蓮…やっぱり私・・」
友梨がそう言いかけると、すかさず蓮が被せるように言った。
「やだッ!聞きたくないッ!やっぱ帰る…」
蓮は耳を両手で塞ぎながら慌てて帰ろうとした。
「えぇっ!?」
友梨はひどく驚くと、帰ろうとする蓮に慌てて後ろから抱きつき必死に叫んだ。
「やっぱり私、蓮が好きなのーッ!!」
「…っっ!!!」
蓮は驚きピタッと足を止めた。
すると友梨は静かに続けて言った。
「蓮が先に好きになったんじゃないよ…。私の方が、先に蓮を好きになった…」
「ちょ…ちょっと…離して…。そっち向くから」
蓮はそう言うと友梨の抱きつく手を離し慌てて友梨の方に身体を向けた。
「友梨…」
蓮は驚きながら友梨の顔を覗く。
「私、思い出したの…。高校受験の日に、受験票落としちゃって…。それを拾ってくれた…蓮が」
「え…」
蓮は呆然と友梨を見つめた。
「あの時、思ったの。左手の甲に三つのほくろ…夏の大三角形みたいって。綺麗な手だな…って」
友梨は優しく微笑みながら蓮を見た。
「友梨…」
「だから…蓮が先生に言い掛かりつけられてた時も、傘なくて困ってた時も…いつも私は蓮の左手ばかりを見ちゃってたんだ。ずっと…蓮の小さな大三角形を目印に勇気を出して声かけてたの…私の方が」
友梨は苦笑いした。
「・・っ!」
蓮は目を丸くさせた。
「蓮に告白された時も…真っ先に蓮の左手を見て、あの綺麗な左手の人だって分かって…。嬉しくてすぐにOKしたんだ…。蓮がイケメンで有名な人だったっていうのは、その後にちゃんと認識したの。蓮が顔が良いからとか…モテてるからとか…そんな事だけで蓮からの告白をOKしたわけじゃないんだよ」
「友…梨…」
「私は蓮の見かけがどうとか、自分がどう見えるかなんて気にしてない。"映え"なんてどうでもいいの!蓮が弱くても臆病でも、私は蓮が好き。こんな私を見つけて真っ直ぐに向かって来てくれた蓮の事が好きだよ」
友梨は真剣な表情で、顔を赤くさせながら訴えた。
「…っっ!!」
蓮は目を見開き顔を赤くさせた。
「だから今日はね、私が蓮の気持ちを聞くんじゃなくて…私が蓮に気持ちを伝えようと思ったの…」
友梨はそう言うと、自身を落ち着かせるように呼吸を整えた。
蓮は驚いた表情のまま友梨に釘付けになっていた。
「蓮…。改めて私と付き合ってくれますか?」
友梨は顔を赤くし恥ずかしそうにしながらも目を逸らさず、真剣に蓮を見つめた。
蓮はすかさず友梨を力強く抱きしめた。
「当たりじゃん。もーぉ、何だよ…。振られるかと思った…」
蓮は友梨を抱きしめながら力なく言うと、涙を流してるようだった。
「蓮…」
友梨も蓮をギュッと抱きしめた。
「俺も友梨がずっと好き…。この気持ちはずっと変わらない。これからまた…よろしく…お願いします…」
蓮は静かに言った。
「うん…よろしくね。蓮が不安にならないように、今度は私から告白しようって思ったんだ。前に蓮が言ってたでしょう?自分から告白したから…とか、自分が先に好きになったから…とか」
友梨は蓮の顔を覗く。
「あぁ…」
蓮は恥ずかしそうに目を逸らした。
「今回はそれ…全部逆だからね。あと、私は映えなんて気にしない性格だから。今度はもう不安になることなんてないでしょう?」
友梨はニカッと無邪気な笑顔で蓮を見た。
そんな友梨の言葉と笑顔に、蓮は優しく微笑みながら静かに応えた。
「うん…」
そして蓮はゆっくり友梨に唇を合わせた。
友梨と蓮は、改めてお互いに気持ちを確かめ合い晴れて元の鞘に収まった。
二人はしばらく離れていた時間を取り戻すかのようにお互いに寄り添い、甘く温かな時間を過ごしたのだった…。
--
一方その頃、銀一は一人下校していた。
「向島ッ!」
千恵が銀一に声をかけて来た。
「樋口さん」
銀一は驚いた様子で千恵を見た。
「大丈夫?」
千恵は銀一の顔を覗く。
「え…」
「友梨のこと」
「あぁ…うん。大丈夫だよ。もうずっと前からそんな気がしてたからね…。すぐに諦めがついたっていうか…」
銀一は苦笑いした。
「私もね、実は昨日…とうとう彼氏に振られちゃったんだぁ…」
千恵はポツリと呟いた。
「え!」
銀一は驚きながら千恵を見た。
「私もずっとそんな気がしてたから…すぐに諦めがついたって言うか…」
千恵が力なく笑った。
「樋口さん…」
「友梨と久岡がよりを戻そうって時に、私のこんな暗い話なんかしたくないじゃん…」
千恵は苦笑いしながら言った。
「・・・っ」
銀一は何て言葉をかけたら良いか分からなかった。
「やっぱり怪しいって思った時点で、もっと相手に食い下がって追求しないといけなかったんだろうな…。私も目を逸らし続けちゃってたから…まぁ自業自得だよね」
千恵はため息混じりに言う。
「そんなッ!樋口さんは何も悪くないじゃんッ。自業自得だなんてッ」
銀一は珍しく怒った口調で険しい顔をする。
千恵が驚きながら銀一を見た後、天を仰ぎながら言った。
「ありがとう…。私ね、付き合うと格好つけちゃう癖があるんだァ。本当は嫉妬してたり寂しいって思っても、なんて事ないふりをしちゃうの…。だからいつも隣で友梨が久岡に怒ってるの見てるとね、自分がいかにプライド高いかが分かる。変なプライド身につけてしまったもんだよ…全く」
すると、銀一は真っ直ぐ前を見ながら真面目な口調で言った。
「プライドは誰にでもあるよ…。簡単に放棄できるものならそうしたいけど…なかなかそうできないのがプライドってものだよ…。プライドがあるからこそ、嫉妬とか劣等感だって生まれる。自然な事だよ。だから、自分が飼ってるそのプライドってやつを、どう躾けるかにかかってるんじゃないかな?」
「プライドを…躾ける?」
千恵はキョトンとしながら銀一を見た。
「うん。プライドが暴走しそうになったら綱を引っ張って自惚れるなって言う。プライドが弱ってたら優しく撫でて自信持てって言う。それから一番大切なのは…定期的に自分が恥を忍ぶ事で栄養を与えるんだ…そのプライドってやつに。そうすれば…良い具合に自分のプライドが過不足なくちゃんと一緒に成長していけるんじゃないかなって思うんだ」
銀一はニッコリ千恵に笑った。
「向島…」
千恵は呆然と銀一を見つめた。
「だから樋口さんの場合は、プライドの栄養不足が原因かもね」
「え…」
「恥を忍ぶのも大切ってことッ」
銀一は微笑みながら千恵に言った。
千恵は呆然としながら銀一を見つめ呟いた。
「うん…そうかも」
そして千恵は静かに微笑んだ。
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