大噴火の織姫と目覚めの彦星

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大噴火の織姫と目覚めの彦星

「俺…花城の事が…好き…。お…俺と…付き合ってくれないか…?」 「はい…。よ…よろしくお願いします…」 --- あれから半年- 「ねぇ友梨、アイツ…またあんなんだけどいいの?」 「あぁ…あれねぇ」 「っつーか、毎度毎度よく懲りずにやきもち焼かせようとしてくるよねぇー。これ見よがしに友梨が見える所で他の女と仲良くしちゃって」 「ほんとだよー。友梨、彼女なんだからもっとガツンと言いなよッ」 「あー言ってるよ。口が壊れるぐらい」 「え?それでもまだあんなんなの?」 「蓮はねぇ、私が嫉妬して怒るのをおもしろがってんのよ。相手が自分に嫉妬してるかどうかで愛情を確かめてんの」 「は?何それ。気分良くなってんのアイツだけじゃん。そんなの、何回もやられたらこっちが辛いだけじゃんッ」 「久岡くん…自分がモテるからって調子に乗ってるのかな…」 「うん。だからもういいかなーって」 「え…何が?」 「妥協すんの?」 「その逆」 「え?」 「終わらせる」 「友梨…」 「今からあそこに行って思いっきりアイツを振ってくるわ」 「えぇっ!!」 「千恵と永奈…これから起こる私の"スカッと花城友梨劇場"をしっかり見届けてッ!」 「ゆ、友梨っ」 -- 私、花城(はなしろ) 友梨(ゆり)(高校ニ年生)は今、半年前から付き合っている彼氏である久岡(ひさおか) (れん)に別れを告げるべく、蓮がハーレム状態となっている現場へと向かっている。 蓮はイケメンで学校では有名なモテ男である。 そんな彼から、半年前に突然学校の裏庭に呼び出され告白された。私も蓮には惹かれていたし断る理由もなかった為、付き合うことにしたのだが…他の女子に対する蓮の態度は変わらず、近づく女子は拒まずベタベタしている。 私も蓮の事をちゃんと好きだった。 だからこそ嫉妬して他の女との距離感が近い事を蓮にはいつも文句を言うのだが、蓮は毎回嬉しそうに決まってこう言うのだ。 「また嫉妬しちゃって」 私の口が裂けるほど言った文句に対し、耳にたこが出来るほど聞き飽きたこの言葉を、決まり文句のように言い放つ蓮。 幾度となく嫉妬をさせる事で愛を確かめようとする彼に今、盛大に三行半を突きつけるのだ。 私、花城友梨の精神力は永遠に持続する強力なものではない。 あらゆるものには限界地点がある。 重量オーバーでちぎれる紐のように。 暴風で折れてしまう枝のように。 そう…今日の私がまさにその地点にいた。 私には、世を代表する憧れのカップルがいる。 それは、織姫と彦星である。 毎日一緒にいたら仕事を放棄してしまうほどに愛し合い、会うのは一年にたった一日だけという条件をつけられてもなお、お互いの気持ちは変わらない…。 何とも素晴らしい純粋な真の愛ではないか。 この固く結ばれた絆のあるカップルみたいに私もなれたら良いのに…と淡い期待を抱きながら過ごしたこの半年間。 現実は厳しかった。 年一しか会えなくても愛を貫ける織姫のように私はなれなかった。 例え毎日会える私達であっても、嫉妬という私の感情により、愛を貫ける自信を失ったのだ。 織姫と彦星のようなカップルになるには、なかなか難しい現実である。 --- 「蓮先輩ー、こんなに私達近いと彼女の友梨先輩がまた嫉妬しちゃいますよー?」 「それが目的でこうしてんだからいいのッ」 「久岡先輩ってホントにSですねー」 「俺って好きな子にはいじわるしたくなっちゃうんだよねー」 「そーゆー所、私は好きですけどねッ」 「ハハッ!」 「蓮…ちょっと良い?」 突然、女達とイチャつく蓮の前に友梨が現れた。 「え…おまっ…いつの間にこっちに」 突然現れた友梨を見て蓮は少々たじろいだ。 蓮はいつも友梨がいる位置を確認しながら、蓮のファンである女子達と仲良さそうにしている。 そう…確信犯である。 「蓮はホントに…いつも飽きないよね」 友梨はため息混じりに呟くと、ギロッと蓮を睨む。 「何、嫉妬してくれてんの?」 蓮はニヤっとしながら友梨を見た。 「うーん・・・…嫉妬を通り越して、無…」 友梨が冷めた表情で言う。 「・・無?」 蓮はキョトンとする。 「もはや神経を抜かれた歯みたいなもんだね。痛みとか…もう何も感じない」 「え…」 「最初は本気で嫉妬してたけど…こうやって毎回わざと嫉妬させようとしてこられると、もはやもう何も感じない。これって…もう私は蓮の事、好きじゃなくなったってことなのかな?」 「へ?」 「蓮って…もっと自信ある強い男だと思ってたけど、違ったんだね。いつまでも飽きずに嫉妬し続けてくれる女の子、他に見つかるといいね」 「え…ちょっと、何言って…」 「別れよっか」 「はぁあーッ?い、いやいや…な、何言ってんだよ急に…。こんなのいつもの事じゃん…」 「こんなの?私を嫌な気分にさせて来た事がこんなの扱いですか。ごめん、私そこまで器が大きいわけでもなければ気も長くないの」 「…っっ」 「私が嫉妬する事で蓮は私の愛が確かめられてめでたいんでしょうけど…それだと私からは蓮の愛が全然確かめられないの。蓮の愛情が全く伝わってこない。私の事、本当に好きなの?」 「好きだよッ!」 蓮は必死に食い下がる。 「本当に好きなら…好きな人を大事に思ってるならばこそ…普通、悲しいとか怒りとかそんなストレスになる感情は与えないもんでしょ?嫉妬するって本当に疲れるの。私はもう無理、疲れた」 「ゆ…友梨、ごめん…」 「フッ…今さら謝られたってもう遅いよ。私、何回も言ってたでしょ?仏の顔は三度までって言うけと…私の顔は三度どころじゃなかったんだからね!私、仏より優しかったのよ?あぁ、邪魔したわね。どうぞよろしくやって?これからは心置きなくイチャイチャできるわよ」 「ちょっと待てよッ、友梨…」 友梨は蓮の制止を振り切り颯爽と去って行った。 「・・・っ」 蓮は初めて見る友梨の無表情に呆然とした。 -- 友梨が教室に戻って来ると、早速豪快に蓮を振っていた事が話題になっていた。 「友梨ーっ!!ホントに良かったの?別れちゃって…」 友人の(つる)()(さき) 永奈(えな)が慌てて駆け寄る。 「いやぁーっ、本当にスカッと花城友梨劇場だったわッ」 友人の樋口(ひぐち) 千恵(ちえ)が笑いながら友梨を見た。 「でしょ?私もスカッとしたー」 友梨はあっけらかんとしていた。 「久岡くんも珍しく慌ててたね。反省してそうだったけど…本当に良かったの?」 永奈が心配そうに友梨を見つめた。 「良いの。蓮ならすぐに良い人見つけるでしょ」 「でも、あのモテ男の久岡くんが初めて女子に告白したんだよね…友梨に…」 永奈がチラッと友梨の顔を見た。 「だったら尚更、自分で手に入れた恋人を大切にしなさいよって話でしょ」 千恵がムスッとする。 「まぁ…確かに…」 永奈が肩をすくめた。 「うん、これで良いの。蓮にとっても私にとっても…お互い良い勉強になったのよ」 友梨がため息を吐きながら言った。 -- 「蓮…お前…大丈夫か…?」 蓮の友人、馬渕(まぶち) 慎也(しんや)が魂を抜かれた状態になっている蓮を心配している。 「・・・・」 「・・まぁ…俺はお前の自業自得だと思うよ?どこに彼女の目の前で他の女とイチャついてる奴がいるかよッ。度を越し過ぎだわッ」 慎也が追い討ちをかけるかのように言う。 「俺が自信のない男だってのは…当たりだわ…」 蓮がボソっと呟いた。 「え…」 慎也が驚いたように蓮を見た。 「あんな冷めてる友梨、初めて見た…」 蓮は呆然としていた。 「…せっかく幸せを手に入れても、どっかで気持ち割り切らないと…すでにある幸せって簡単にどっか行っちまうんだな。お前見ててそう思ったわ…。何でお前はもっと自分の事認めなかったんだよ…そんなモテ男のくせに…」 慎也が憐れな眼差しで蓮を見る。 「いや…告白したの俺からだったし…不安じゃん…。俺のこの面だけで承諾してくれたのかなって…。俺だけが好きなのかもって…」 蓮が俯く。 「ハァー・・。だがなぁ…もっとやり方があったと思うぜ?あんな浮気っぽいのを毎回見せられたら、お前だって嫌にならねぇか?もっと相手の立場に立って考えてみろよー」 「…俺、友梨が嫉妬してくれた事に快感を覚えちゃって…つい…。今回も怒るだけだと思ってたから…。だいたい俺、浮気してねぇし…」 蓮が口を尖らせる。 「バカだなァー…。浮気してないにしても、お前が他の女と仲良くしてるの見たら友梨ちゃんだって気分悪いだろう。下手なことしないでそのままのお前でいればこんな事にならなかったかもしれねぇのに…」 慎也は自身の額に手を当てた。 「・・・っ」 慎也の言葉にガックリ肩を落とす蓮であった…。 -- 「あ、これ…落としましたよ」 友梨が廊下を歩いていると、足元にプリントが落ちてきた。 プリントを拾うと目の前でたくさんのプリントを抱えている男子生徒に声をかけた。それは同じクラスで隣の席の向島(むこうじま) 銀一(ぎんいち)であった。銀一はクラスの中でも目立たず、長めの前髪でちゃんとした表情が見えない地味な風貌の男子生徒である。 「あ…ありがとう」 銀一はポツリと応えた。 「あ、向島くんか。って、え…ちょっ…それ全部向島くんが持ってくの?また落とすよ?」 友梨は驚きながら銀一を見つめる。 「あぁ、大丈夫」 「半分持つよ」 友梨はそう言うと、強制的に銀一が抱えているプリントの上半分をごっそり取った。 「どこ?職員室?」 友梨は銀一の顔を覗く。 「うん…」 銀一はポツリと呟いた。 「ねぇ、向島くんって何でそんなに前髪伸ばしてるの?」 友梨は素朴な疑問を投げかけた。 「あまり…人と目合わせて話すの得意じゃないから」 「ふーん…」 友梨は元カレの蓮と正反対の人だなと思った。 「世界が変わるかもよ」 友梨はポツリと呟いた。 「え…」 銀一は友梨の方を見た。 「人の目を見て話すって…案外良いものだよ」 友梨はそう言うと銀一にニッコリ笑った。 「・・・」 銀一は長い前髪越しに友梨を見つめた。 「ほら、こうしても私からは向島くんが笑ってるのか分からないじゃんッ」 友梨は口を尖らせた。 「ふふ…」 銀一が静かに笑った。 「あ、笑った!今向島くん笑ったね!ほら見えないじゃーん!向島くんの笑った顔がぁ…」 友梨は笑顔で話す。 「・・・・っ」 銀一に笑顔を向ける友梨を、たまたま居合わせた蓮が陰から見つめていた。 友梨を怒らせてばかりいた蓮は、銀一に向けているような友梨の笑顔を見たのは久しぶりだった。 友梨の怒った顔や困った顔より、一番欲しかったのは笑顔だった事に改めて気づき、酷い後悔が蓮を襲った。
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