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後日談 〜それぞれの星座達〜
友梨と蓮が改めて付き合い出してから、早くも数ヶ月が経とうとしていた。
「なぁ…結局、清須と伊藤のカップルはあの後すぐに破局したらしいな」
ある日、蓮が友梨にサラリと言う。
「まぁ、あれだけ廊下で騒ぎになったんだもん…そりゃ気まずいわよね」
友梨もサラリと言った。
「人を傷つけて手に入れた幸せなんてもんは、泡みてぇなもんなんだな…すぐに消えちまう」
蓮は遠い眼差しで呟いた。
「本当そうね。じゃあ…私達の幸せは金剛石だねッ!」
友梨はニッコリ笑いながら蓮を見た。
「金剛石?」
蓮はキョトンとしながら友梨を見る。
「別名…ダイヤモンド!」
「ダイヤモンド…」
「そう!ダイヤモンドは硬いの。ちょっとやそっとじゃ消えてなくならない。それにね、ダイヤモンドの言葉…」
「言葉…?」
「純愛…。変わらぬ愛…」
友梨が顔を赤くしながら蓮をチラッと見た。
「…っっ!!」
蓮は心を射抜かれたような感覚になり呆然と友梨に見惚れた。
「…ちょ…ちょっと…黙らないでよー!何か言ってよーッ!恥ずかしくなってくるじゃんッ」
友梨は赤くなった顔を逸らしながら蓮の腕を小突いた。
すると蓮は静かに友梨を抱き寄せた。
友梨は驚きながら蓮の鼓動を静かに聞く。
「確かに俺らにピッタリだな。ダイヤモンド」
蓮は落ちついた口調で静かに言った。
友梨は小さく微笑み頷いた。
「ちょっとお取り込み中、悪いんだけどよー」
蓮と友梨がベンチに腰掛けていると、後ろから慎也の声がした。
蓮と友梨は驚いて振り向いた。
「ねぇー聞いてくれるー?この子ったら、きつねの八重歯に出て来るきつね隊の柱、煉魂ぎつねにガチで惚れちゃってんだけどー!!俺という彼氏がいながら…」
慎也は不貞腐れながらふみ香を指差した。
「ガチ惚れではないの!推しッ!推しなの!」
ふみ香は慎也に抗議する。
「推しでも俺は嫉妬するぞッ!」
慎也はふみ香に食い下がる。
蓮と友梨は苦笑いした。
慎也とふみ香は、共に映画を観に行ったあの日から恋人同士になるまでにはそう時間はかからなかった。
「お二人も分かりますよね?煉魂さんの魅力!後輩のきつね達を守るあの姿と、あのメラメラ燃える闘志…。"胆っ魂を燃やせっ!!"って言うあの名ゼリフ…最高ですよねぇ?」
ふみ香が蓮と友梨に力説している。
「確かにな。アイツ、かっけぇよな」
蓮が頷く。
「確かに、最高だった!!私達もあれから見事にハマっちゃったもんね、きつねの八重歯!」
友梨は笑顔になる。
「あの後、八重歯が気になって俺ら映画館に直行したもんな…」
蓮が苦笑いした。
「映画館から馬渕くんと結城さんが大号泣しながら手を繋いで出て来たのには、さすがにビックリしたわ…。まぁ、私達も号泣したけど」
友梨も苦笑いした。
すると慎也とふみ香は顔を赤くし照れていた。
そんな二人を見た蓮と友梨は目を細めた。
すると、慎也が静かに呟いた。
「そりゃあ…煉魂ぎつねはかっこいいって、俺だって思うけどさ…」
慎也が口を尖らせている。
そんな慎也を見たふみ香はポツリと言う。
「でも…生身の人間の中で一番かっこいいって私が思ってるのは、慎也だけど…ねぇ…」
「・・・っっ!!ふ…ふみちゃん…」
慎也はふみ香の言葉に驚き顔を赤くさせると、呆然とふみ香を見つめた。
「お前ら…人の事言えねぇぐらい熱々じゃねぇかッ」
蓮が思わずツッコむ。
友梨もニヤニヤしながら慎也とふみ香を見た。
慎也とふみ香は顔を真っ赤にさせた。
「やあやあ、お疲れー」
するとそこへ、千恵と銀一、永奈と隆ノ介がそれぞれやって来た。
あれから…千恵と銀一、永奈と隆ノ介はそれぞれ二人の距離を縮めて行き、めでたくカップルとなっていた。
「あらお疲れ。ダブルデートですか?」
友梨はニヤニヤしながら千恵達を見た。
「まぁ…勉強会と言う名の…ね」
千恵は照れながら応える。
銀一は千恵の横で顔を赤くしている。
「向島ーッ!あの本、無駄にならなくて良かったなァッ」
蓮がニヤニヤしながら銀一に言う。
「ひ…久岡くんッ!!その話はッ!」
銀一がギロッと蓮を見た。
蓮はにこやかに銀一に微笑んだ。
「二人の秘密…なんだっけ??その本は。私達にもそろそろ見せてもらいたいもんだけどねぇー…千恵?」
友梨な蓮をジロリと見た後、千恵に言う。
「…っっ!!」
蓮は友梨の言葉にたじろいだ。
「ほんとほんとー!今度、銀ちゃんの部屋に行った時に教えてもらおうかな?」
千恵はニヤッと笑いながら銀一を見た。
「じゃあ、私も今度蓮の部屋行った時に見せてもらおうッ」
友梨も笑顔で言う。
「…っっ!!」
蓮は引き攣った顔をする。
「ちょっ…ほらぁーッ!!久岡くんッ!アンタ墓穴掘ってんだよッ!!」
銀一はギリギリと蓮を睨む。
「・・・わりぃ…」
蓮は苦笑いした。
「永奈ちゃん、そう言えばこれ。借りてた漫画ありがとう。おもしろかった」
隆ノ介が永奈に笑顔で話す。
「ほんと?良かったー!」
永奈は安堵した表情をする。
「特に永奈ちゃんの推しキャラ、僕もファンになっちゃったよ!」
隆ノ介が笑った。
「えっ!!ほんとに!?嬉しいーッ」
永奈は喜んで飛び跳ねる。
すると、永奈は思い出したようにカバンから何やら取り出して隆ノ介に差し出した。
「そう言えば、これなんだけど…。たまたま通りかかったお店の前にね、お面ライダーのガチャポンが置いてあったからやってみたの。中身は見てないから分からないんだけど…これあげる」
永奈は照れながら言った。
「えっ!!嬉しい…ありがと!」
隆ノ介は驚きの表情で受け取った。
すると、早速ガチャポンのカプセルを開けてみた。
「…っっ!!え…永奈ちゃんっっ…これは!」
隆ノ介はカプセルを開けて目を見開いている。
そんな隆ノ介を永奈は不思議そうに見つめた。
「これ…なかなか手に入らない…幻の…ゴールドお面ライダーだよッ!!!」
隆ノ介は目を輝かせながら永奈を見つめた。
「えぇっ!!うそッ!すごいッ!や…やったぁー!」
永奈は満面の笑顔で喜んだ。
「ハァー・・・。永奈ちゃんは、僕にとって幸運の女神だよ…」
隆ノ介は天を仰ぎながら呟いた。
「・・っ!…そう言ってもらえて嬉しいな…」
永奈は照れながら呟いた。
隆ノ介はそんな永奈を見て、顔を赤くしながら呟いた。
「ありがとね…永奈ちゃん」
永奈と隆ノ介はお互い笑顔で見つめ合った。
「いつの間にか、熱々ね…永奈と長谷くんは」
千恵がニヤニヤして二人を見ていた。
「…っっ!!」
永奈と隆ノ介は顔を真っ赤にして照れていた。
「まさか隆ノ介がこんな顔をする時が来るなんてな…」
銀一が感慨深く隆ノ介を見つめていた。
「それを言うなら銀一の方こそじゃんッ!樋口さんにデレデレしてる顔…そんな顔する時が来るなんてなッ」
隆ノ介はここぞとばかりに言うと、銀一をツンツン突っついた。
「うっ…うるさいよ…」
銀一は隆ノ介の言葉にたじろいだ。
「えへへ…でもね、長谷くん。銀ちゃんはデレデレしてるだけじゃないんだよーッ!私の前ではすっごく男らしくて…かっこいいんだから」
千恵が嬉しそうにしながら銀一の顔を覗く。
「・・・っっ!!千恵…」
銀一は千恵の言葉に赤面した。
そんな銀一の姿に皆微笑ましく思った。
しばらくして銀一は千恵にボソっと呟いた。
「千恵も…その…か、可愛いよ…」
「…っっ!!!」
銀一の意表を突いた言葉に千恵は驚き顔を真っ赤にさせた。
「千恵どうしたー?顔真っ赤だけど」
友梨は不思議そうに千恵を見た。
「ななな…何でもない…」
千恵は狼狽えながら応えた。
そんな千恵を銀一は微笑みながら見つめた。
各々の幸せそうな表情を見渡した友梨は、大きく深呼吸をした後、微笑みながら空を見上げた。
---
時はさらに過ぎ、学年が変わった友梨達は夏休みを迎えていた。
ある日の夜、友梨達仲間は皆で星空鑑賞会をする為に高校の近くにある見晴らしの良い公園へと集まった。
「うわー!今日晴れてて結構星見えるねー」
友梨が星空を見上げた。
「今日は最高だな」
蓮も見上げる。
千恵や銀一、慎也とふみ香、永奈と隆ノ介も揃って空を見上げている。
芝生になっている丘のような場所に、皆腰を下ろした。
「何か…宇宙を覗いてるみたい…」
永奈がポツリと呟いた。
「確かに宇宙だね…きれい」
千恵も空を見上げながら言う。
「あ!あれが夏の大三角形だよッ!」
友梨は東の空を指差した。
「お、あれか!三角発見」
蓮が声を上げた。
「大三角形のコラボ」
友梨は蓮の左手を指差した。
「だなッ!本当に同じ形だな…すげぇー」
蓮は自身の左手甲にあるほくろをまじまじと見た。
「この大三角形の中に、織姫と彦星がいるのよね」
友梨は空の大三角形を見つめながら言った。
「あぁ…一年に一回しか会えないってやつな…。俺らは三ヶ月で済んで良かったな…あの時…」
蓮が苦笑いした。
「アハハッ!そうだねーッ」
友梨は蓮との一悶着を思い出し笑った。
「友梨先輩と蓮先輩が織姫と彦星なら、私達は白鳥座のデネブですねーッ!」
ふみ香は得意げに言う。
「アハハッ!確かに!皆のおかげで無事に綺麗な三角を保てましたーッ」
友梨は笑顔で応えた。
すると友梨は続けて言った。
「でも…織姫と彦星は、何も私と蓮だけじゃないんだよ?」
「え…」
ふみ香達はキョトンとした。
「例えば、結城さんが織姫で馬渕くんが彦星。その場合は、私達が白鳥座のデネブ!」
友梨はふみ香達を笑顔で見た。
「あぁ…なるほど」
慎也とふみ香は目を丸くする。
「千恵と向島くんの場合だって同じ。あと…永奈と長谷くんもね!」
友梨は千恵達を見回した。
千恵や銀一、永奈と隆ノ介も目を丸くしながら友梨を見つめた。
「主役が入れ替われば、それぞれの立場や役割も変わる…。皆がお互いに支えてるのよねー。だって…二人だけじゃ、あんな綺麗な大三角形は出来ないもんね?」
友梨はそう言うと満面の笑顔を見せた。
そんな友梨の言葉と笑顔に、一同頷き笑顔になった。
友梨の隣に座る蓮は、優しい表情で友梨を見つめた。
そして、そっと友梨の手を握りしめた。
友梨は驚いて蓮の顔を見た。
蓮は黙って空を見上げていた。
星明かりに薄っすらと照らされた蓮の横顔は、とても美しかった。
友梨はそんな蓮に呆然と見惚れてた。
「星、見ないのかよ…」
蓮が照れ臭そうに呟いた。
「あ…」
友梨は我に返りたじろいだ。
慌てて空を見上げる友梨をチラッと見ると、蓮は静かに口を開いた。
「前に…俺らの幸せを例えるとダイヤモンドだって話あったじゃん」
「あぁ…あったね」
「まだ先の話だけどさ。お前の左手に…付けてやるからな…」
「え…」
友梨は驚きながら蓮の顔を見た。
蓮は照れを隠すように空を見上げていた。
友梨は微笑みながら呟いた。
「うん…。待ってる」
蓮は思わず友梨を見た。
友梨はニッコリと笑った。
「おぅ。待っとけよ…」
蓮はそう言うと、照れくさそうに微笑みながら友梨を見つめた。
友梨は想像した。
輝くダイヤモンドを付けた自身の左手を。
そして…蓮と向かい合い、蓮の左手…小さな大三角形のある手の薬指に友梨が指輪をはめてあげるのを。
「うん…最高だね」
友梨はポツリと呟いた。
すると蓮と友梨は、お互いに笑い合った。
友梨と繋がれてる蓮の左手にギュッと力が入るのを感じる。
友梨もそれに応えるように、蓮の左手を力強く握り返した。
蓮と友梨の手は、いつまでも変わらずに保ち続けている星座のように固く結ばれている。
夏の大三角形が輝く夜空の下で、
小さな大三角形を纏った彼の左手に、
指輪が輝く日を待ち遠しく思う。
現代に生き、毎日会える織姫と彦星は、周りにいる仲間達に感謝しながら明るい未来を約束し想像したのであった…。
-おわり-
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