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「蓮ッ!」
翌日の昼休み、蓮の友人である慎也が蓮に声をかけた。
「ん…?俺今日も昼要らねーぜ…」
蓮は相変わらず元気のない様子で応える。
「友梨ちゃんがお呼びだぞ」
慎也のその言葉を聞いた瞬間、蓮は慌てて立ち上がり入り口の方を見た。
入り口にはぶっきらぼうな表情で立つ友梨の姿があった。
「ちょっと…良い?」
友梨は蓮の顔をチラッと見た。
「・・・っっ」
蓮は顔を赤くし黙って友梨の後について行った。
友梨と蓮は屋上へとやって来た。
「友梨…何で屋上の鍵…」
蓮は驚いたように友梨を見た。
「さぶちゃんに頼み込んで借りた…」
さぶちゃんとは、フレンドリーな生物教師、三郎丸 将吉で生徒達からはさぶちゃんと言う愛称で呼ばれている。
友梨と蓮は腰を下ろした。
「蓮…これ…」
友梨はそう言うと、蓮にお弁当を差し出した。
「え…」
蓮が驚きながら友梨を見つめた。
「あれからずっと…お昼食べてないって言うじゃない…。これ、蓮の分も作って来たから…」
「友梨…」
蓮が呆然と友梨を見つめていた。
「食べないの?」
友梨がジロリと蓮を見た。
「食べる…」
蓮は顔を赤くしながら弁当を受け取った。
「・・・友梨…俺の事もう嫌いになったんじゃねぇのかよ…」
蓮は俯いている。
「私はそこまで薄情な人間じゃないわよ」
友梨はムスッとしている。
蓮は驚いて友梨を見た後ポツリと呟いた。
「・・ありがと…」
友梨は蓮の素直な言葉に驚きながら蓮を見つめた。
蓮は赤くなった顔を逸らす。
「・・私…今の蓮を見て正直驚いてる…。まさか、蓮がこんなふうになっちゃうなんて思ってなかったから…」
友梨は呆然と蓮を見つめた。
「だって…失ったものが大き過ぎんだもん…」
蓮が俯いている。
「蓮は…そもそも何で私の事、好きになってくれたの…?蓮って結構モテてるじゃん。たくさんいる女子の中から…何で私だったのかなあって」
友梨は素朴な疑問を改めて蓮にたずねてみた。
「女子なのに…勇敢な所…」
蓮がポツリと呟いた。
「え…」
友梨がキョトンとしながら蓮を見た。
「俺がお前に告白するだいぶ前、初めての委員会の席でお前と隣の席になってさ。たまたま俺が座った席の近くにタバコが落ちてて…それを堅物の鬼教師が俺のだって決めつけて一方的に怒って来た時あったじゃん・・・」
--
先生「オイッ!久岡ッ!そこに落ちてるタバコ、お前のだろッ!後で職員室来いッ!」
蓮「えっ!?違ぇよッ!!俺のじゃねぇよッ」
先生「じゃあ誰のだって言うんだッ!お前しかいないだろッ」
蓮「だから違うって!」
友梨「先生ッ!」
先生「何だ?花城」
友梨「私達がこの教室使うのって今が初めてなんですけど、私が一番最初にこの教室来た時にはもう既にそのタバコ、そこに落ちてましたよ?」
先生「え…」
友梨「先生、証拠もないのに勝手に犯人だって決めつけちゃうと…それ冤罪になりますよ?下手したら、訴えられますけど」
先生「うっ…。まぁ…じゃあ、良い。久岡…、悪かったな…」
蓮「・・・っ」
-委員会が終わって-
蓮「花城…」
友梨「?」
蓮「さっきは…ありがと…」
友梨「いいえ。事実を話しただけなので」
友梨は軽く会釈して去って行った。
蓮は呆然と友梨の後ろ姿を見つめた。
--
「あぁ、あの時ね…」
友梨は思い出したような顔をした。
「あの時…すげぇなって一気に心掴まれた…」
蓮が照れながら言う。
「あれって…蓮だったんだ」
友梨があっけらかんとしながら言う。
「はぁあッ!?え…お前、俺って認識なかったのかよッ!?」
蓮が驚きながら友梨を見た。
「うん…私その時、蓮の顔までは見てなかった」
「・・たしかに…目は合ってなかったけど…」
蓮は呆然としながら友梨を見つめた。
「じゃあ…その時がきっかけ?」
友梨が蓮の顔を覗く。
「いや…」
「え?」
「それよりも前だわ」
蓮が遠くを見ながら呟いた。
友梨はキョトンとしながら蓮を見つめる。
「傘…貸してくれた時…」
「傘…?」
「土砂降りの雨が降ってた放課後、俺が傘忘れて入り口で立ってた時に・・」
--
蓮「うわー、マジかよ…。滝じゃん…」
友梨「あの…この傘、良かったら…」
蓮「え…1本しかないじゃん…。あ、一緒に入ってく?」
友梨「いえ。私、合羽があるんで、それ着て帰ります」
蓮「え…」
ガサガサ…
すると友梨はカバンから合羽を取り出した。
バサァッ…
友梨は合羽を颯爽と羽織った。
蓮「…っっ」
友梨「あ、その傘あげますよ。うち、ビニール傘たくさんあるんで。それじゃあ」
"1年A組 花城"
蓮「・・・」
--
「ああいう時、相合傘目的で声かけてくる女子は結構いるのにさ、お前…まさか合羽を持ち合わせてるなんて…。お前が合羽着て帰るって言ったのがすげぇビックリした…」
「あぁ…そんな事あったかも…」
「あの時お前、合羽をカバンから取り出して、医者が白衣を羽織るみたいにカッコよく合羽を着て走って帰ってくから…。合羽着てもカバンはすげぇ濡れてんじゃんって。その時からだな、友梨の存在が大きくなったのは…」
蓮が照れ笑いした。
「あれも…蓮だったんだ…」
友梨は驚きながら蓮を見た。
「おまっ…それもかよッ!!どんだけ俺の顔見てねぇんだよッ」
「私、こう見えても結構勇気振り絞って声かけてんのッ!顔見るとか…それどころじゃないわよ」
友梨は口を尖らせながら言う。
「・・・っ。もう…何なの、お前。振ったくせにこれ以上ときめかせんなよ…。マジで辛すぎるわ…」
蓮は俯いた。
「え…」
友梨はキョトンとしながら蓮を見た。
「…っっ。この前の…雨の時、友梨がアイツに傘貸そうとしてたじゃん」
蓮が静かに口を開く。
友梨は、別れた後に蓮と二人で帰った雨の日を思い出した。
「あぁ…うん」
「俺だけの経験にしときたかったから、止めた…友梨が傘貸そうとするの」
蓮がチラッと友梨を見た。
「え…」
友梨が目を丸くする。
「どうせまたお前、合羽羽織って帰ってただろ?俺の時みたいなカッケーお前の姿、他の奴には見せたくねぇもん」
「…っっ」
友梨は蓮の言葉を聞いて若干頬が熱くなった。
「俺さ…友梨と付き合ってた時、たしかに全然自信なくて…。友梨の言ったとおり…臆病だった。好きになったの俺が先だし、告白したのも俺からだったから…俺ばっかりが好きなんじゃないかって思って…」
「…っっ」
「友梨と会うまでは、俺…女子からは"映え"の良い材料としか思われてなかったから…」
「映え…?」
「うん…」
「・・・」
友梨はキョトンとしながら首を傾げた。
「だから…友梨が嫉妬してくれてるの見る度に、俺の不安が少しやわらいだ…。でもそんなやり方…間違ってた。友梨の気持ち考えなくて…ほんとごめん…」
「三ヶ月」
友梨が静かに呟いた。
蓮はキョトンとしながら友梨の顔を見た。
「三ヶ月後の…今日。蓮のその気持ちがまだ変わってなかったら…考え直しても良いよ」
友梨は俯きながら静かに言った。
「え…。えぇっ!!ほ…本当に…?」
蓮は驚きながら友梨を凝視した。
「まぁ…調子乗って悪ノリしちゃうところを直さないと無理だけどねッ」
友梨は照れ隠しをするかのように顔を逸らした。
「直すッ!絶対、直す。戻れるなら何だってするッ!」
蓮はそう言いながら友梨の手を握った。
友梨は驚きながら強く握る蓮の手を見た。
"・・・っ!"
友梨は蓮の手を見て、何だか雷に打たれたような感覚になった。
忘れかけていた何かを思い出したような…。
「蓮の手…久しぶりに見た…」
友梨は蓮の手を見ながら呟く。
「え…」
「蓮の左手の甲…ほくろ…」
「あぁ…これ」
「・・・」
「どうかした?」
「ううん、何でもない…」
蓮は呆然とする友梨を不思議そうに見つめた。
「・・これ…いただきます…」
蓮は手を離し友梨からもらった弁当を開けた。
「あぁ…どうぞ」
友梨は照れながら呟く。
「・・・美味い…」
蓮は目に涙を浮かべながらポツリと呟いた。
「蓮…大袈裟…」
友梨は苦笑いしながら蓮を見た。
「うぅ…っっ」
「え…ちょっと…」
蓮の涙はしばらく止まらなかった…。
友梨は蓮の涙に驚きたじろいだ。
「蓮、馬渕くんに感謝しときなさいよ」
「え…」
「あと…結城さんにもね」
「えぇっっ!?結城にも?な…何で…」
蓮は驚きながら友梨を見た。
「蓮って…恵まれてるわね」
友梨は笑みを溢しながら蓮を見た。
蓮は呆然としながら友梨を見つめた。
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