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友梨から希望ある言葉をかけてもらった蓮は、徐々に元気を取り戻して行った。
「友梨、久岡くん元気になって来たみたいじゃん。何かした?」
友人の千恵が友梨の顔を覗いた。
「…三ヶ月後に…また考え直しても良いって言った…」
友梨が照れながらポツリと呟いた。
「へぇ〜、なるほどねぇ」
千恵がニヤニヤしながら友梨を見る。
「それで久岡くんも元気が出て来たわけだぁッ!久岡くんって相当友梨の事好きなんだね」
永奈がニコニコしている。
「ちょっと…あまり揶揄わないでよ…」
友梨が顔を赤くする。
「・・・」
そんな友梨の様子を隣の席に座る銀一はチラッと見た後、浮かない表情で俯いた。
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「そう言えば慎也、友梨がお前に感謝しろって言ってたんだけど」
蓮が思い出したように慎也に言う。
「本当だよッ!俺という友の存在を有り難く思えよ!」
慎也が鼻を高くする。
「・・・っ。何かよく分からねぇけど…とりあえずまぁ、ありがと…」
蓮が顔を逸らしながら呟く。
そんな蓮の様子に慎也はため息吐きながら目を細めた。
「まぁーとりあえず、望みもらえて良かったなァ」
慎也は蓮の肩に手をやった。
「うん…。もう完全に終わったと思ってたから…ほんと良かった…」
蓮が静かに言う。
「今度はちゃんと、友梨ちゃんに素直になるんだぞッ!回りくどいやり方なんかしないでッ」
慎也が蓮を小突いた。
「うん…」
蓮が珍しく素直に返事をする。
「本当にお前って…友梨ちゃん大好きだな…」
慎也はまじまじと蓮を見た。
「う…うるせぇよ…」
蓮は赤くなった顔を逸らした。
慎也はそんな蓮を微笑ましく思いながら見つめた。
「そう言えば…結城にも感謝しろって…友梨言ってたんだけど…」
「え…。ふみ香ちゃんにも??マジで友梨ちゃんがそう言ってたの?」
慎也が驚きながら蓮を見た。
「うん…」
「え…意外…」
「だよな…。とりあえず…後で結城とも話してみるわ…」
蓮が不思議そうな顔をしながら言った。
--
「・・・」
友梨は、蓮の手を見た時に感じた感覚を呆然と考えていた。
そして、蓮に言われた自分に惹かれて行った過去の場面…あの時なぜ自分は蓮の顔を見てなかったのだろうと、友梨はぼんやり考えていた。
緊張していたことは確かだが…それでも友梨は人と話す時は顔を見て話すようにしていたのだ。
隣では、銀一や銀一の友人である隆ノ介、友人の千恵や永奈が談笑している。
銀一が友梨に告白した騒動をきっかけに、銀一の周りは賑やかになっていた。
隣の席で明るく話す銀一を友梨は呆然と見た。
そう言えば、銀一と前髪の事で最初に話した時だってそうだった。
友梨は銀一の顔を見て話をしていた。
だからこそ、友梨は銀一の前髪が気になったのだ。
じゃあなぜ…蓮と話したあの時はどちらの場面も蓮の顔を見ていなかったのか…。
友梨は自身の過去の行動について思考を巡らせていた。
「花城さん、どうかした?」
突然、銀一が声をかけて来た。
「友梨、どうしたの?ぼーっとしちゃって」
永奈も心配そうに顔を覗く。
「え!あぁ…ううん。何でもない…」
友梨は我に返り慌てて応えた。
「本当に大丈夫ー?」
千恵は笑いながら友梨を見た。
友梨は苦笑いした。
そんな友梨を銀一は不思議そうに見つめた。
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放課後、友梨は校舎裏にあるゴミ捨て場までゴミを運んでいた。
「あ、友梨ちゃん!」
ちょうどそこへ蓮の友人である慎也がやって来た。
「馬渕くん」
友梨が目を丸くさせた。
すると、慎也が笑顔で話し出した。
「友梨ちゃん、アイツにチャンスくれたらしいじゃん。俺からも礼を言うよ」
「なんか…馬渕くんって蓮と一心同体って感じだね」
友梨はクスッと笑った。
「アイツの事、何かほっとけねぇんだよな…」
慎也が苦笑いする。
「こちらこそ、ありがとう。意地を張るだけじゃダメだなってブレーキかけれたのは、馬渕くんのおかげ」
友梨は気の抜けた表情で慎也を見ながら続けた。
「あとはー…結城さんも」
「あ、それ…蓮も言ってた!何でふみ香ちゃん?」
慎也が目を丸くさせる。
「結城さんもね、私の所来たの。馬渕くんと同じ」
「え…ふみ香ちゃんが?」
慎也が驚いた表情をさせる。
「うん。だから…蓮は幸せ者じゃんって思った」
友梨は笑顔で慎也を見た。
「ふみ香ちゃんも、何だか言って…友梨ちゃんと付き合ってる時の蓮が良かったんだな」
慎也がフッと笑う。
「本物のファンだね」
友梨は小さく笑った。
「間違いないね」
そう言うと慎也も釣られて笑った。
「そう言えば…映えって何?蓮と話した時に、女子から"映え"の良い材料としか思われないとか言ってたんだけど…」
友梨は思い出したように目を丸くさせる。
「あぁ…」
慎也は遠くを見つめゆっくり口を開いた。
「アイツさ…イケメンでモテるんだよ…」
「・・・うん、知ってる」
友梨はキョトンとする。
すると慎也が続ける。
「イケメンなだけあって、その見た目に釣られて寄ってくる女子も多くてさ。んー…そうだな…例えるなら、ブランド品に釣られる女子って感じでそれを持ってるだけで自慢できるし写真映えする…みたいな」
慎也は考えるように話す。
友梨は目を丸くさせながら慎也を見る。
「だから大して蓮の事を好きじゃなくても告ってくる子とか、蓮と付き合いたいって子が多くてさ。だから逆にアイツは、愛情に対しての自信が無いんだよ。友梨ちゃんからOKもらっても…嬉しさ反面、不安も大きかったんじゃないかな?」
慎也は友梨の顔を覗いた。
「そうだったんだ…」
友梨は呆然としながら呟いた。
「まぁ、モテる奴なりの苦労ってのもあるってことだよな。側から見ると羨ましいって思う事が、本人にとってはコンプレックスになってたり悩みの種だったりするんだよ。だからこそ、周りが簡単に良し悪しなんて決められねぇよな」
慎也は頭に両手を回してながら遠くを見た。
「確かに…」
友梨は小さく頷いた。
「俺なんて今まで告った経験しかねぇのにさぁ、それをアイツから言わせれば羨ましいんだってさ」
慎也が口を尖らせた。
友梨は目を丸くしながら慎也を見る。
「自分から本気で好きになった奴だけに純粋に向かって行けるのが良いんだと」
「・・・」
「まぁ…でも、それが初めて蓮にも訪れたのが友梨ちゃんってわけなんだけど」
そう言うと、慎也は友梨をチラッと見た。
「…っっ」
友梨は顔が熱くなった。
「友梨ちゃんも根気よく向き合ってあげてよ…アイツと。アイツも今純粋に向かってる最中だからさ…友梨ちゃんに」
慎也が友梨の顔を覗く。
「…っ」
友梨は目を丸くし言葉に詰まる。
「アイツは生粋の一途だから」
そう言った慎也はニッと笑った。
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「元気になったみたいですね、蓮先輩ッ」
ふみ香がムスッとした顔をしながら蓮の顔を覗いた。
「おぉぅ…まぁな…。お前…もしかして…友梨に何か言った…?」
蓮がふみ香をチラッと見た。
「ふぅー…。友梨先輩に謝っときましたッ」
ふみ香が真っ直ぐ遠くを見ながら言った。
「え…」
蓮は驚いた顔をした。
「まぁ…私にも、今回の原因を作っちゃった責任もありますしね。まさか…蓮先輩があんな廃人になっちゃうなんて思いませんでしたよッ」
ふみ香が口を尖らせる。
「いや…お前は悪くねぇよ…。俺が全部悪かったんだし…。お前を使うような事して…本当に悪かったよ…。本当、ごめん…」
蓮がふみ香に頭を下げた。
「・・っっ。私の事は…もう良いですよ…。蓮先輩が元気になれば…それで…。まぁそれだけ私は蓮先輩の事が好きだって事なんですけどねぇ」
ふみ香はそう言うと蓮の顔を覗いた。
「・・・っっ。…ごめん…本当…」
蓮が申し訳なさそうな顔をした。
「でも・・私は蓮先輩が友梨先輩と付き合い出した時点でもう諦めてましたけどねぇ、蓮先輩のことは…。私といたっていつでも友梨先輩ばっかりでしたもんねー、蓮先輩はッ!」
ふみ香はジロリと蓮を見た。
「・・・っっ」
「ハァー・・。あんな風になるぐらいなら、もう二度とあんな真似はしないでくださいよッ!期待は全然してませんでしたけど…好きでもない人に期待させるような事、もう絶対しないでくださいねッ!」
ふみ香が蓮をジロリと見る。
「・・はい…」
蓮が小さく呟いた。
するとふみ香は蓮の背中をバシッと叩きながら言う。
「もうッ!良いですから、元気出して下さい!ったく…世話が焼けますねッ」
「うっ…。・・ありがとな…結城…」
蓮がふみ香の顔をチラッと見た。
「ハァ…。ほんと蓮先輩ってずーっと私の事、全然名前で呼んでくれませんね…。友梨先輩しか」
ふみ香が冷めた表情で蓮を見た。
「…っっ、ごめん…」
蓮が気まずそうに呟く。
「フッ…。でもそういうところがまた蓮先輩の魅力でもありますけどねー」
ふみ香は思わず笑った。
「結城…」
蓮は呆然とふみ香を見つめる。
「その一途な気持ちに、もっと自信持ったらどうですか?友梨先輩だって分かってくれますよッ」
ふみ香は蓮の顔を見ずに言う。
蓮はふみ香の言葉に驚くと同時に、優しい笑顔を見せ呟いた。
「おぅ…。ありがとな…結城」
蓮とふみ香はお互いに笑い合った。
「そう言えば、慎也先輩も友梨先輩に頭を下げに行ったみたいですよ」
ふみ香がサラリと言った。
「えぇっ!?アイツが?」
蓮は驚いた表情を見せた。
「良かったですね、私と慎也先輩がいて」
ふみ香がニッと笑った。
「・・あぁ…」
蓮は穏やかな表情を見せた。
---
「ねぇねぇ、久岡先輩って意外と打たれ弱いよねー」
「そうそう。彼女に振られたぐらいであんなに弱っちゃうなんてねぇ」
「何かガッカリだよねー。せっかく顔はカッコいいのに…あんな弱々しい所見たくなかったよねー」
「ほんとー。あんなんじゃ一緒にいたってカッコがつかないよねー」
「そうそう。意外とカッコ悪くて期待外れって感じ」
「私、本当に好きだったのに残念…」
蓮とふみ香が二人で戻る途中、蓮のファンと思われる女子達が話す陰口が蓮とふみ香の耳に入って来た。
蓮「・・・っ」
ふみ香「ちょっ…あの子達何言って…」
「あなた達、そんなんでよく本当に蓮の事が好きだったなんて言えるわね」
突然、友梨の声が聞こえてきた。
蓮とふみ香は慌てて覗いた。
すると、友梨が蓮の悪口を言っていた女子達に向かって言っていた。
「友梨…」
蓮は呆然とその光景を陰から見つめた。
「蓮の魅力って顔だけ?ニコニコ陽気に笑ってるだけが魅力なの?それ以外の姿を認めないなんて…そんなの本当に好きだったとは言えないわね」
友梨が堂々とした態度で言う。
「・・・っ」
女子生徒二人は気まずそうにしている。
「本当に好きだったって言える人は、その人の弱い部分もちゃんと認めて、その人の為に何とかしようと行動を起こせるような人の事を言うのよッ。なんちゃってファンは辞めた方がいいわね。あなた達が本気で好きなのは…自分自身でしょ?」
友梨はそう言うと、颯爽とその場を立ち去って行った。
「友梨先輩…」
ふみ香は何だか心を掴まれた感覚になりながら、呆然と友梨の後ろ姿を見つめた。
「やべぇな…これ…」
蓮は顔を赤くし友梨の後ろ姿を見つめていた。
そんな蓮の顔を見たふみ香は静かに呟いた。
「私…分かりました。蓮先輩が、友梨先輩を好きな理由…」
「うん…正解…」
蓮はポツリと呟いた。
「フフッ…」
ふみ香は蓮の言葉に思わず笑った。
「・・・」
友梨の姿を陰から見ている人物がもう一人いた。
それは銀一であった。
銀一は神妙な面持ちで友梨の立ち去る姿を見つめていた。
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