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文化祭も無事終わりしばらくして、友梨と蓮が初めて屋上で話をしてからあと半月で三ヶ月になろうとしていた。
「そーいえば、千恵は彼氏と最近どうなの?」
永奈は千恵の顔を覗いた。
「あー・・」
千恵が遠い所を見ている。
「文化祭の時に一緒にいた人?」
銀一が千恵を見た。
「うん、そうそう…」
「へぇー!樋口さんって彼氏いたんだ」
銀一の友人、隆ノ介は驚いた表情で千恵を見た。
「千恵達、学校ではあまり一緒にいないもんね」
友梨がチラッと千恵を見ながら言う。
「実は、学校以外でも…最近あんまり会ってないんだよね…」
千恵が苦笑いする。
「え…」
友梨達は驚きながら千恵を見た。
「何か…いる気がするんだ…」
千恵は友梨をチラッと見た。
「ん?何が?」
友梨はキョトンとする。
「他に…女の人…」
千恵はポツリと呟いた。
「え…。えぇぇぇえーっ!!」
その場にいた友梨達は驚きの声を上げる。
「まぁ…女の勘ってやつ?」
千恵はぎこちなく明るく振る舞う。
「う…そ…」
友梨は呆然と千恵の顔を見た。
「千恵、それって…何でそう思ったの…?」
永奈は心配そうに千恵を見た。
「私…見ちゃったんだよねぇ。休日にアイツが同じクラスの女子と二人で歩いてるところ…」
千恵は苦笑いする。
「え、それマジなの…?」
友梨が千恵を凝視した。
「うん…」
千恵が俯く。
「許せん…」
友梨がワナワナと怒りで震える。
「で…でも、何か事情があったりとかは…?」
永奈はおどおどしている。
「私それとなく聞いてみたの。でも…アイツ、嘘ついたんだ…」
千恵は珍しく真面目な口調で言った。
「千恵…」
永奈は呆然と千恵を見つめた。
すると、千恵が静かに口を開いた。
「前に…久岡がわざと友梨に嫉妬させようとして、わざわざ友梨の目の前で女子と仲良くしてたじゃん?それ、最初は許せないって私思ってたんだけど…今はちょっと羨ましいって思ってんの」
千恵は苦笑いしている。
「え…」
友梨は驚いたように千恵を見つめた。
「久岡って…他の女子と仲良くする時はいつだって友梨の前だけだったでしょ?私の彼氏は…私の見えない所で仲良くしてる。しかも、二人きりで…。断然こっちの方がタチが悪いでしょ」
千恵は苦笑いしながら言う。
「千恵…」
友梨達は心配そうな表情で千恵を見ている。
「ハァー・・振られるのも時間の問題かなー、私」
千恵はため息を吐きながら天を仰ぐ。
「そんな…。それなら千恵から振っちゃえばいいじゃん…」
友梨がムスッとした顔をする。
「ハハッ。そうしたいんだけどねぇ…。でも、最後まで信じたいって気持ちも…少しはある」
千恵は真っ直ぐ前を見ながら言う。
「・・・っっ」
友梨や銀一、永奈や隆ノ介は何も言えずただ呆然と千恵を見つめていた。
--
休み時間、友梨が廊下を通るとちょうど廊下の外で蓮が女子二人に話しかけられていた。
友梨は咄嗟に身を隠す。
「蓮くん、花城さんとより戻すの?」
「…っ」
友梨はこっそりと聞き耳を立てる。
同時に、度々聞き耳を立てる場面に遭遇してしまう自分のタイミングの悪さに頭を抱えた。
「まだわからない…アイツと約束してる日までは」
蓮がぶっきらぼうに話している。
「え、いつが約束の日なの?蓮くんそれまで待ってるの?辛くない?なんか待てされてるみたいじゃん」
女子の一人が詰め寄る。
「・・・っ」
友梨は俯いた。
すると、蓮の言葉が聞こえて来た。
「別に。本気で好きなら待つことぐらい平気」
「…っ!!」
友梨はハッとした表情で顔を上げた。
そして、女子に対して冷静に冷たく返している蓮に驚いた。
すると、蓮は続ける。
「野生動物じゃあるまいし、我慢できる理性ぐらいはあるよ。それに…俺、女子なら誰でも良いってわけじゃないから」
「・・っ」
友梨は蓮の受け応えに驚き、チラッと陰から蓮を見てみた。
そこには、友梨がいつも目撃していた後輩と仲良くしている蓮とはまるで別人のように無愛想な蓮の姿だった。
「もー!蓮くんってほんとにツレないよね!」
「ほんとほんとー。花城さんが見てないといつも無愛想ーッ!なんでよー」
女子二人が蓮に抗議している。
「うるせぇよ。そんなん今さらだろ」
蓮が冷たくあしらう。
「・・・」
友梨は驚いていた。
蓮が女子に対して良い顔していたのが、自分の前だけだったことに。
"アイツ…ほんとに私の気を引くだけに…"
友梨はそう思うと、急に顔と胸が熱くなり何だか居た堪れなくなった。
「…っっ」
友梨は足早にその場を立ち去った。
友梨がその場を去った後、蓮に話しかけていた女子の一人が口を開いた。
「でもさ、蓮くん。言われた通り待ってるだけじゃ逆に冷められちゃうんじゃない?」
「は?」
蓮は真顔でその女子の顔を見る。
「だってさ、女子って結構押しの強い男の子の方が好きだよね?」
その女子はもう一人の女子の顔を見る。
「確かにねー。忠犬みたいにただ待ってるだけじゃ、花城さんもこんなもんか…とか思ってがっかりしちゃいそう」
女子が蓮の顔を覗く。
「・・・」
蓮の目からは完全に活気が失われていた。
---
"希ノ島屋書店"
休日、銀一は高校の最寄り駅近くにある本屋に一人来ていた。
"俺の恋愛成功術"
銀一はある一冊の本に目を留め手を伸ばすと、ちょうど同じタイミングで横から誰かの手が伸びて来た。
銀一は驚き、手を伸ばして来た相手に目をやった。
「あ…」
それは、蓮であった。
「お…お前…」
蓮は銀一を見るなりひどく驚いた顔をした。
「どうぞ…」
銀一は内心動揺しながらもクールな表情で蓮に本を譲った。
「・・・いや…いいよ」
蓮もぶっきらぼうに言う。
「いいよ、久岡くんが買えば良いじゃん」
銀一がムスッとしながら言う。
「お…俺は別にそこまで切羽詰まってねぇし」
蓮はツーンとしている。
"むっ!"
銀一は若干頭から湯気を立てながら言い返した。
「俺だって同じクラスだし、席となりだし、一日の中で花城さんと一緒にいる時間は久岡くんより長いから余裕だしッ」
「ナニッ?!」
蓮は銀一をギロッと睨みワナワナ怒りに震える。
するとその時、どこからかイチャついたカップルの声が聞こえて来た。
「真司〜ッ、次の連休旅行楽しみだねッ!熱海の観光スポットどこがいいかなー?」
「もぉー有沙、気が早いよー。まだ来月の話じゃん」
「だって楽しみなんだもーん!泊まりだしッ」
「有紗、昨日うち泊まったばっかじゃん」
「旅行先で泊まるのとはまた違うでしょー」
派手にイチャつく話し声の方に、銀一と蓮は思わず目をやった。
「あれ…」
銀一と蓮は同時に呟いた。
観光雑誌コーナーの前で、イチャイチャしていたカップルは、なんと友梨の友人である千恵の彼氏で蓮と同じクラスの清須 真司と、真司や蓮と同じクラスの女子、伊藤 有沙であった。
「え…アイツらって付き合ってたの…?・・ん?ってかアイツって…」
蓮は呆然と二人を見つめる。
「・・樋口さんの彼氏」
銀一がポツリと呟いた。
「だ、だよなぁ?俺も前に友梨から聞いた覚えあるわ。・・え、どういうこと?別れたのか?どういう状況だよ、あれ」
蓮は真司達を指差しながら銀一を見た。
「アイツ、浮気してる」
銀一が無表情で真司達を見ながら呟く。
「え…」
蓮は驚き固まる。
「きっとまだ…樋口さんと別れてないはずだし…。ついこの前だって、まだ付き合ってるような事言ってた…」
銀一は厳しい眼差しで真司達を見た。
「えぇっ!?・・おいマジかよ…」
蓮は驚き、険しい表情で真司達を見た。
「樋口さんの勘、当たっちゃってんじゃん…」
銀一が真顔で静かに呟いた。
「え…」
蓮は驚きながら呆然と銀一を見つめた。
「お兄さん達、この本…まだ在庫ありますよ」
突然、銀一と蓮の間に眼鏡をかけた本屋の店員が現れ、声をかけてきた。
「え」
銀一と蓮は驚き、同時に店員を見た。
「ほら、あそこにあるよ」
店員が少し離れた場所を指さす。
銀一と蓮は、店員が指をさしている方向に目を向けてみると、そこには二人が譲り合っていた本だけのコーナーが出来ており、"俺の恋愛成功術"という本がピラミッドのように積まれていた。
「…っっ」
銀一と蓮はたじろぐ。
「"俺の"シリーズ、人気なんですよねぇ〜。特にこの本、"俺の恋愛成功術"は発売当初から大人気でして、実はこの僕も…この本を読んで実践してみたところ、なんと彼女が出来たんですよぉ〜!」
眼鏡の店員は頬を赤くし照れながら言う。
「・・・・」
銀一と蓮は、何も言わず店員に案内された場所へ向かうと、それぞれ"俺の恋愛成功術"という本を手に取り静かにレジへと向かった…。
「ありがとうございますぅ!頑張ってください!」
眼鏡の店員は蓮と銀一の背中に熱い眼差しを注ぎながら、親指を立て力強くグッのポーズをした。
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