Scene 1 そこはかとないイラ立ち

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 辰巳蒼一(たつみそういち)は、意外に慎重な性格だ。  なので、十字路の手前に差し掛かるといつも自転車を減速させている。けれど、今日は違った。  忘れ物を取りに途中で家へ引き返したから、無意識に急いでいたのかもしれない。 「きゃっ!」 「わっ!?」  曲がり角を走り抜けようとした瞬間、現れた人影に驚いて蒼一は反射的にハンドルを右へ切った。その急激な動きに、自転車とともに地面へ倒れ込む。  マジでびびった……ってか、痛ぇ…… 「だ、大丈夫ですか!?」  右足に痛みを感じてうずくまっていたら、ぶつかりそうになった人物が駆け寄ってきた。 「ああ。大丈夫大丈夫」  蒼一は相手を不安にさせないよう、笑顔を用意して顔を上げた。
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