僕の家

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

僕の家

僕の家は、駅から10分程歩いた所にある。 残念な事に、バスも通ってないし自転車も買うお金がないから歩いて通っている。 駅を背にして歩くとヤンキー達のたまり場のロータリーがあり、そこを抜けると人通りが少ない細い道につながる。 この道に入るとすれ違うのは地元の人達だけになりフゥ〜と安心する。 僕はこの道に入った所で、やっと地元に帰ってきた安堵感が半端ない気持ちになる。 命がいくらあっても足りないくらい、駅からこの道までドキドキや不安が半端ない。 いつも絡まれるのではないか、その時はどうしたらいいかとか、起こるはずもないのに1人想像してヤキモキしている。 この道はとても細い道だから人が1人通るのがやっとの幅で人とすれ違う時は、双方が横になってカニ歩きですれ違わなければ、通れない。 そういうのもあって、ヤンキー達はこの道には溜まったりしないし、山に入る道になるから両端は木々に覆われていて街灯もなく、夜に通ったら幽霊でも出てきそうな位 不気味ではある。 僕は、小さい頃から慣れている道だし寧ろホッとする道で少し愛着も湧いているけど。 木々に覆われているから自然に囲まれて癒される。 この道をずっと先まで進むと山を越える道に繋がるのだけど、山を越える手前に僕の家はある。 僕の家は、平屋で見るからに築何十年も経っているボロ屋だ。 初めてヤンキー達がたまり出した時に、通ったようで一時『幽霊が出る』とか『包丁を持ったやつに襲われる』とか変な噂が流れてしまい誰も寄りつかないようになった。 僕にとってはそれが良かったけど。 『包丁を持ったやつに襲われる』っていう噂は あながち間違ってない…… 原因は、僕のお父さんだ。 「お〜い!酒持ってこ〜い!酒!」 はぁ〜また聞こえてきた。声がでかいんだよ!と心の中でいつも思う。 うちのお父さんは、酒癖が悪くて働かなくていつも家にいる。 お母さんは、僕達が小さい頃から働かなくては暮らせないので1人体調が悪くても働いていてくれて僕達を育ててくれている。 どうして、こんなお父さんと結婚したのかといつも思うしこんな男とは絶対に結婚しないと思う位に最悪だ! それでも、お父さんは僕達が小さい頃は事業をしていて生き生き働いていたようだ。 だけど、ある時事業が傾いて倒産してからは、こんな風になってしまったらしい…… お母さんは僕達が大きくなってからは 「昔はこんなお父さんじゃなかったのよ」と口癖のように話してくれていた。 酒癖ならまだ可愛いものだけど、たまに手をあげる。 どうしようもないお父さん。 だから、うちは両親のケンカが絶えなくて いつも、お互いがいがみ合って怒っている。 僕が働くようになってから仕事から帰ってくると両親がまたケンカしたんだと家の中の雰囲気でわかる。 こんなに、日々家の中がイライラしたような空間で僕は心が休まらない。 僕の働いたお金は、毎月家に少し入れて残りは僕の必要な生活費。その中から毎月少しずつ貯金をしている。 妹が高校が卒業してある程度お金が溜まったら、この家を出ていくつもり。 お父さんとお母さんのケンカはかなりやばい…… 言い合いだけならいいけれど、部屋の物は飛んでくるし、どちらかが包丁を持って来る時もある。 ヤンキー達の噂になった時もお父さんが包丁を持ち出して、お母さんに襲いかかろうとしていた。 お母さんは、その時は流石に自分の身に危険が迫っているし、僕達が危なくないように外にお父さんをおびき出して少し離れた所で木々の陰に隠れたみたい。 その時に肝試しと称して遊びに来ていたヤンキー達に出くわしてお父さんは勘違いして追いかけたというのが、あの噂の真相だ。 お母さんが僕が社会人になった時に話してくれた。 「いつもお父さんとケンカばかりしてお母さん疲れないの?どうして別れないの?」 「そうね〜どこがいいか分からないかもしれないけど、あれでいい所もあるのよ〜」 とお母さんは笑いながら話してくれる。 今はお母さんも穏やかに笑っているけれど、 家の中も含めてこの『梁北町』の空気はガチャガチャ荒々しい。 それが僕の家と僕が住んでいる町。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!