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「……怒ってます?」
恐る恐る、といったふうにそれが首を傾げた。
「……」
あえて無言で押し通す。しゅんと項垂れる頭を撫でてやりたいのを堪えて、俺は仁王立ちになって見下ろしていた。
そんな時間が数分経った頃、もう潮時かなと思って組んだ両腕を離そうとしたときーー。
「うう……っ」
男泣きを始めたのを見て、少しやりすぎたかと反省する。だんだんとしくしく声だったのが、嗚咽混じりになって息が苦しそうだった。
……ここまで追い詰めるのはよくないな。
「裕次郎」
「っはい……うっう……」
ようやく上を向いた裕次郎の顔は涙でぐちゃぐちゃで、それを見ると胸が苦しくなった。いや、嘘だ。ほんとうは加虐心が疼きまくっていた。
「……俺が帰ってきたらまずはやることがあるだろ」
ぱっと裕次郎の表情が一時停止する。次の瞬間、目を泳がせてゆっくりと立ち上がった。俺よりゆうに背の高い裕次郎だが、猫背のせいか腰が低く見える。
「おかえりなさい、了さん」
「ただいま」
裕次郎が俺の耳元で囁く。そのままその広い腕の中に沈んでいく俺の体。
ーー帰りの一息はこれに限るな。
ぴったりと張り付いて離れない子供体温の裕次郎の背を軽く撫でてやると、くぅんと子犬が鳴くような声を鼻から出した。
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