プロローグ

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プロローグ

「またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ」  月に照らされた路上に、抑揚の無い小さな声が響く。 「またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ。またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ」  壊れた玩具のように、同じ言葉が繰り返される。   否。 ように、ではない。実際にその声は、路上に転がる小さな玩具から発せられていた。    手のひら大のその玩具が(かたど)るのは、月夜の騎士・ラビットナイト。  月光を背に颯爽と現れ、目にも留まらぬ剣さばきで悪人どもをなぎ倒す、画面の中のヒーローだ。子供たちは彼の活躍を求め、日曜朝を待ちわびる。  そんな子供の一人が、月夜の路上に倒れていた。  彼はもう、日曜朝にラビットナイトを見ることは無いだろう。 「またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ」  彼の手元には、小さな玩具が落ちている。テレビアニメ『月夜の騎士・ラビットナイト』とコラボレーションしているファーストフード店で手に入る、安っぽいプラスチック製の玩具だ。声は、そこから発せられている。 「またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ」  月が照らす路上に、血溜まりが広がっていく。 「またせたね。せいぎのきし・らびっとないとが、わるいやつをたおしにきたよ」  彼が最後に見たものは、いったい何だったのだろう。
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