虫取撫子

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さぁ…この納涼コーナーもそろそろ お別れのお時間が近づいてきました。 最後にお届け致すのは 私 MC真奈美の実際にあったお話です これは私が入院していた時の話です その日は いつもよりも寝苦しく中々寝付けずにいました。 備え付けの冷蔵庫には飲料水を切らしていて 喉も渇いてるし買いに行くことに 時刻は0時30分を過ぎていて徘徊してると 看護婦さんに注意されるのですが 何故かナースステーションには看護婦さんの 姿はなくこの時はラッキーだと思ってました フロアの自販機に向かったのですが お目当ての物が無くて仕方なく 地下の自販機に行こうと思い エレベーターを待つ ガァアアアアア… 少々古めのエレベーターは 何処かしらガタがきているのか いちいち大きい音が フロアに響く 降下してきたエレベーターの中には お花を持った女性が1人乗っていました。 その姿に戸惑いつつも私の足は エレベーターの中に向かっていく こ、こんばんは … その女性は無言でニコッと会釈をした 冷房とは違う冷たい空気に 私は不安を覚える 少々不気味だが 持っていた可愛らしい花のおかげか 私の勘を鈍らせた この人も入院してる患者で 私と同じように喉が渇き 地下の自販機に向かっている そうよ。きっとそうなんだわ お花はお見舞いに貰った 余りにもお気に入りなので片時も離れずに 持ち歩いてるんだわ なるべくポジティブに考えた エレベーターはゆっくりと降下し始める ガ…コン… ガ…コン… 重く冷たい機械音がなお一層に 不安を掻き立てる 気のせいかいつもよりも広く感じる 大丈夫…直ぐ着く…大丈夫… …6 … …5 … …4 … …3… いや…ダメだ! 私はヤバいと悟り 慌てて1階のボタンを連打する …2… …1… お願い止まって!止まって!心の中で叫んだ 一生で1番長い一瞬の時間だった エレベーターは1階で止まりドアが開くと 私は平静を装いゆっくりと出た 背後に刺す様な視線を感じる 絶対に振り向いてはいけない 絶対に振り向いてはいけない 怖いもの見たさの私ですら その先にある後悔に臆す 心臓は今までにないくらい鼓動し ふきだす冷や汗が全身を伝い やがて呼吸するのも忘れる 頭の中は真っ白になり 恐怖からの縛りがとかれた私は しばらくロビーに座り込んだ 私は気づいてしまったんです 私が乗っていたエレベーターは 従業員専用のエレベーターで 通常のエレベーターではB1はコンビニへ 従業員専用のエレベーターではB1は 霊安室に直結しているんです 何故いつも乗り慣れてるエレベーターに 私は間違って乗ったのだろうか あのまま霊安室にたどり着いたら私は どうなっていたのだろうか あの女性も間違えて乗ってしまったのだ きっとそうに違いない だがエレベーターが浮上する事は無かった 止まった階を示すB1の灯りを私は ただただじっと…見つめていた 私はそれ以来入院中に エレベーターを使うことは ありませんでした 後日談ですが この話を看護婦さんに話すと 少し強張った表情の後に 「もう夜間の徘徊はしないで下さいね。」 と強く念押しされました 看護婦さん達の間でも 夜間1人では専用のエレベーターは 利用しないそうです。 私の見たあの女性が 影響しているのでしょうか あの時 エレベーターのドアが閉まり切る直前の 「チッ…」って舌打ちが未だに 耳から離れません… …はい!オッケー!CM入りまーす いやぁ〜真奈美さん 引き込まれましたよ怖かったです! 納涼企画に相応しいトリでしたね 番組スタッフからの賛辞の声に私の心中は 嬉しさ半分 憂鬱半分といったところか はぁ…ネタに出来たとはいえ 嫌な事を思い出したなぁ… 呑んで忘れよっと その日の夜着信が入ってきた 電話を掛けてきたのは入院中に仲良くなった 看護婦の智子だった 真奈美〜?さっきラジオで話していたのって この病院よね? めっちゃ怖かった〜 しかも私今日夜勤なのよ!? 同僚達も怖がってたわ この話は彼女達からの 反響は大きかった 無理もない なんせ自分達が勤務してる 職場なのだから ふふ。ごめんったら けどそんだけ盛り上がってくれたら MCとしては嬉しいわ それだけでも話した甲斐があるわよ 本ッ当あんたって転んでも タダじゃ起きないわね あんな怖い思いしたのに 当然じゃない!怖い思いしたからこそよ …けどあれ以来…なんともない? 智子は私を心配してくれていた 大丈夫よ。むしろ私よりも勤務してる 智子達が心配よ それもそうだ。と笑い あ、じゃあまたね!と 彼女は忙しいそうに電話を切った 晩酌しながら放送の感想をチェックする やはりいい反応だらけだ 優越感をツマミに お酒がどんどん進む ふと思った あの女が持っていた花はなんなんだろうか 何故持ち歩いてるのか 確かピンクの花だったわよね… あまり気が進まないが 調べる事にした 元は人間のはずだ もしかしたら何かを 訴えかけたかったのかも知れない バッドエンドとは違う 良い方の霊を期待した あったあった!これだ えーっと名前は… 虫取…撫子? ぷっ…変な名前ね 花言葉は… 花言葉を見て 私は寒気がしたと同時に モヤモヤしていたのが晴れ 全てを理解した …何が良い霊だ…ちくしょう… 呑んで忘れたい いつもよりも大量のアルコールで 記憶を意識をもうろうとさせる ヴー…ヴー…ヴー… んん?…携帯のバイブ機能に起こされた どうやら私は寝入っていたようだ 時刻は夜中の2時 画面には非通知の文字 ん〜?… きっと智子だな?さては同僚達と結託して 私を怖がらせるために電話してきたに違いない 泥酔時の思考回路は まともな判断はつかない しかもわざわざ非通知とは やってくれるわね〜 もしーもし! 智子でしょ!?あんた勤務中に しかもこんな時間に非通知なんてヤリすぎよ と小馬鹿にしながら電話に出た ……………………… と、智子? ねぇ…? とも…こ…だよね? ガァアアアアア…… …ガ…コン… …ガ…コン… なにかの機会音が聞こえる 私は直ぐに分かった 間違いない…あのエレベーターだ 酔いは一気に冷め まるであの夜の続きの様に私を誘った え?…ちょ…ちょっと! 冗談はやめてよ!ねぇ!? 智子なんでしょ!?ねぇ!? なんとか言いなさいよ!! 「チッ…」 乾いた音が耳の中に響いた それは聞き覚えのある舌打ちだった 瞬間 戦慄が走る       ア゛       ア゛        ァ゛       :             も       う゛       少゛       し       だ       っ゛       た゛       の゛       に゛       い゛       ぃ゛       い       ぃ       ぃ゛       い゛                          生気のある人から決してでない声は あらゆる不吉の怨を発して 奈落の底に堕ちていくように降下していく ツー…ッー…ッー… 余程未練があったのか どうやらあの女は今も エレベーターでの中で 私を待っていたようです 虫取撫子 その花言葉は 「未練」「しつこさ」「誘惑」 そして 「罠」 あの女は今夜も誰かが 罠にかかるのを じっと静かに待っている その花の魅力に惑わされて 油断する虫を捕らえるように ただじっと… ガァアアアアア… こ、こんばんは〜 あ、一緒の階ですね いやぁ喉乾いて寝つけませんよね? ……… …可愛いお花ですね いいなぁ。自分も誰かお見舞いに 来てくれないかなあ あ!お姉さん来ます?なんてね ははは… ……… チッ…なんだこの女 ノリ悪りぃな… ずっと黙りやがって 愛想もない お、着いたか ん?なんだ?ここ? 振り返ると女は満面の笑みを浮かべていた
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