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序
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風が吹き付ける。
街を越え、草原を越え、大きな山脈を越え。
足元に見える海が、頭上の白い雲が、ぐんぐんと後方へ過ぎ去って行く。
鱗は所々割れ、大きな羽には血が滲み、上空の冷たい空気に晒され続けた身体は冷え切っている。
全速力で駆け、ようやく見えてきた目的地。
煙が上がっている。
人が燃えている。
愛しい人が戦っている。
「アンバーお待たせ!加勢するよ!」
姿を変え、上空から愛しい人目掛けて落下する。
手にはいつの間にか、身の丈を超える長い鉄棒が握られていた。
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……
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変な夢を見た。
フィクションに出てくるような竜に乗って空を翔けていたような、…いや、自分が竜になっていたような…?
本当に変な夢を見たものだ。
ファンタジー映画なんて見ることないのに。
昨日成人祝いで飲んだお酒が効いたのだろうか。
おかげで目覚ましが鳴るより早く目が覚めた。
日の出にもまだ時間があるようで、辺りは暗い。
体を起こし、ベッド脇の窓を開けると、早朝特有のひんやりとした空気が流れ込んできた。少し寒い。
覚醒しきっていない頭は上手く働かない。
『…あっ、今日休みじゃん。ほんっと何でこんな早く起きたかな。』
辺りは静まり返っていて、家族や近隣住民はまだ誰も起きていないことが判る。
目が覚めてしまったものは仕方ないと、とりあえず窓は閉め、寝ぼけ眼でジーンズに白いブラウスを羽織った。
カーペットも敷いていないフローリングはダイレクトに冷たさを伝えてくる。ベッドに戻りたくなってしまうが、ここで2度寝すると絶対昼まで寝てしまうだろう。
『ふぁ…ぁ、ねむ…。』
朝のルーティンをこなすために部屋を後にし、洗面所に向かう
猫っ毛でくせっ毛の髪に櫛を通し、きっちり纏めてバシャバシャと顔に水を浴びた。
目は覚めた。せっかく早く起きたのだから朝ごはんを作ろう。
目玉焼きを作ろうと冷蔵庫から卵を5人分取り出した。しかし一度に5個の卵を運ぶのは無理があったのか、ひとつ落としてしまった。
『あッ……あー、やらかした。』
落としてしまった卵を掃除しようと割れた殻に手を伸ばす。
よく見ると漏れた白身は何だか気味の悪い色をしていた。
『あれ、腐ってたんだ。これいつの卵?全く……』
そうぼやきながら殻を持ち上げた時、その白身を起点として暗い穴が出現した。
いきなりできた落とし穴を回避出来るような一般人はいない。
何か言うこともできず、その場から落ちるようにして消えた。
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