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翔子はそう言うと、雑木林の小路を指差した。
「登山口って感じですね。」
岳彦が先を登る、翔子は岳彦の後に続いた。
余談ではあるが、鎌倉が世界遺産の認定を逃したのは、天園ハイキングコースをはじめとする数々のハイキングコースのアピールに欠けたからである。
コースの一部がゴルフ場に侵食されているのは残念ではあるが、この景色こそ鎌倉が世界に誇れ、遺産となり得るにふさわしいものだと思う。
鎌倉と言えば武家という勇ましい言葉がイメージされてしまうが、京都と同じ禅宗の寺が名を残している。
戦乱や天災の影響で、鎌倉時代のものは数こそ少ないが、鎌倉大仏に象徴されるように、世界的に有名な仏像も存在している。
実朝から始まり、川端康成も愛した文学の都でもある。
四季折々の花の寺は京都にも劣らない。
これからふたりが目指す獅子舞は、その鎌倉の紅葉の美しさを存分に堪能出来る素晴らしい場所である。
鎌倉宮-獅子舞経由の案内板が見えると、右に折れて、屈折した下り路をゆっくりと翔子と岳彦は降りた。
冬晴れの晴天であるが、谷間に成っていて陽があまり当たらない場所はうっかりすると足を滑らせる。
「翔子さん、滑りやすいから気を付けて下さい。」
先に行く岳彦は、そう言いながら自らの気を引きしめて下った。
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