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しばらく下ると、ほとんど陽を透さない幾重にも重なった赤と黄色とわずかに残る夏の緑の見事なコントラストの紅葉が眼下、頭上を覆う。
岳彦は振り返って翔子の様子を伺うと、翔子は立ち止まって、眉の上で手傘を作って辺りの紅葉を眺めている。
「そこで少し休みましょう!」
岳彦はそう言うと、切り株が点在する平地を指差すと、リュックをおろして座れる切り株を探しだした。
「翔子さん、これにどうぞ。濡れていないし綺麗だからそのまま座れますよ。」
「ありがとう。」
岳彦の優しさが伝わる。
「綺麗ね!」
沢山の人が頭上を見上げている。皆、思いは同じである。
「翔子さん、何故?獅子舞って言うのか分かりますか?」
岳彦はそう言うと、腕を組んで空を見上げた。
「ハイキングコースから直ぐ下った所はイチョウの黄色が鮮やかだったでしょう。あそこが獅子舞の谷。銀杏の臭いが凄かったわ。獅子舞というのは・・・」
「翔子さん、言わないで下さい!」
岳彦は慌てて翔子の言葉を止めた。
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