遼子の恋

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「雛祭りに備えて雛人形の展示を考えてくれないか、坂本君。」 雛人形といえば埼玉の鴻巣が近隣では有名である。 「明日、鴻巣の工房へ視察に行くから坂本君、僕に付き合ってくれ。」 遼子は内心、お供は翔子じゃないの?菅谷と同行は気が引けたが仕事である。 翌朝、菅谷の運転で遼子は鴻巣へ向かった。 関越自動車道を熊谷で降りてしばらく走ると、鴻巣に到着した。 工房ノジマと書かれた簡素な工房へふたりは入った。 人形が所狭しと置かれていて、社長の野島秀作が対応してくれた。 木型で型抜きした頭が並べられて、職人が筆を入れている。 「野島さん、お顔は化粧するのですか?」 遼子の問い掛けに野島は、 「ハマグリやカキ、ホタテの貝殻を焼いて作った白色の顔料を作って塗ります。我々職人が一体一体、魂を込めて筆で顔を作ります。」 遼子は目を輝かせながらその作業に釘付けである。 「野島さん、分業で着付けから装飾まで本当に手作業なんですね!」 遼子は益々興味津々である。 「はい、ご覧の通りですから、雛人形は高価な物になってしまいますが、私どもは手抜きはしません。」 「野島さん、今日はコストダウンのご相談に伺いました。この作業を拝見して誠に言いづらいのですが、昨年の価格から5%値引き出来ないでしょうか?」 菅谷は単刀直入に切り出した。 しばらく野島は考えていたが、昨今は雛人形は少子高齢化の影響を受けて売上げは下降線を辿っている。 それと業界大手が、雛人形は祖母、母親の人形を継承するものではないと、歴史からその必要性をアピールしているが、賛否両論で女の子が生まれると所謂、お下がりや不要になった知人友人から譲り受ける家庭も少なくない。
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