東京

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水平線に陽が沈んで暗闇に包まれると、月明かりに照らされた海は不思議な輝きを放つ。 穏やかな波の音を除けば、シーンと鎮まる街。 13年前の大地震と大津波はまるで嘘の様である。 3月末になっても海風は冷たく感じるが、ここ三陸にも本格的な春の訪れはもうそこまでやって来ている。 翔子は、僅か三畳の自分の部屋で、電気毛布にくるまって、流行りのファッション雑誌の頁を捲りながら寝転んでいる。 元々、六畳だった部屋はカーテンによって仕切られている。 隣は、高1の弟の城である。 翔子は、隣街の女子高校に通う3年生。 4月から東京の銀座に本社がある大手百貨店、山王百貨店への就職が決まっている。 この百貨店の最大店舗は池袋で、地方出身者の多くは池袋店へ配属される様である。 昨年の11月に就職試験の為に上京、大宮から池袋、華やかで賑やかな街。 自分には似合わない街であるかもしれない東京。 社員寮のある大泉学園をパンフレットで見た時は、ちょっぴりホットしたが、それでも都会。 自分の住んで居る漁村とはまるで違う。 東京へ行って自分を変えたい! 地方の年頃の女子ならば誰でも抱く心の迷い?いや、誘惑であるが、なんとなくではあるが、翔子は東京で変われる気がして就職を決意した。 身長168センチ、体重は内緒であるが、世間では太っていると感じさせる体型であった。 そんな翔子ではあるが、学校の成績は常に上位。 大学や専門学校へ進学することも考えたが、家庭に余裕はない。 東京でひとり暮らし! 翔子の夢・・・ 夢なんてものではないのかもしれないが、とにもかくにも東京へ行かなければ何も始まらない。
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