東京

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就職が内定すると、涙ぐましい翔子のダイエットが始まった。 間食は勿論NG、食事も体脂肪を燃やし、食物繊維が豊富な食材にこだわった。 走る歩くのジョギングは約1時間、雨でも雪の日でも毎日続けた。 目標はマイナス15㎏。 翔子はそれを約4ヶ月間で見事に達成した。 太っているからぽっちゃりへと表現が変わった事は、大きな進歩である。 いつも笑みを絶やさず、穏やかに過ごした。 あとは綺麗に成りたいという気持ちがあれば良い。 ハートが醜いと、それは容姿に反映される。 若い成長期の体は、ぽっちゃりから大人の魅力的な女性の体型へと変わって行く。 翔子が東京へ旅立つ前夜。 母親と父親、そして弟といつものように食卓を囲んだ。 少しばかりの御馳走で家族は、翔子の門出を祝ってくれた。 母親の葉子は、さすがに娘の将来を思うと、東京なんかでひとりで暮らして行けるのか。 そう思うと不安であったが、葉子の若い頃に比べると東京は別世界ではない。 父親の宗二に至っては、まったく無関心である。 漁師として海へ出て仕事をするが、夜になったら焼酎をあおりながら、テレビの時代劇を視る事を生き甲斐にしている。 宗ニも葉子も東京生まれの東京育ちで、サラリーマンに嫌気が差した宗ニは漁師に憧れ、翔子が産まれると此処、三陸へ移り住んだ。 弟の康二は頭が良く、なかなかのイケメンで、翔子にとって自慢の弟である。 彼は、明るく穏やかな性格で、いつも翔子の味方であった。 康二にとって過去の翔子は、ルックス的に自慢出来る姉ではなかった。 どちらかと言うと、自分の姉である事をクラスメイトや友達には内緒にしておきたいと思う姉であったが、 康二は中学生になっても翔子と一緒に学校へ通った。 帰りも部活が休みの時は、校門で待ち合わせて一緒に帰る事もしばしばあった。 あからさまに姉の事を悪くは言わないが、奇妙な笑いと陰口は気にしないと決めていても、あまり気持ちの良いものではない。
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