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それはゲジゲジに似たモノ、目玉にヒレと舌を持ったモノ、針のような牙を持つ深海魚に似たモノ、蛇のような身体を持ちながら内蔵が腹からはみ出たモノなど形容し難い生き物が無数に現れ、海辺のフナムシごとき多数と俊敏さで座敷中に一気広がり、座敷から消えていった。
「な、今の……」
行彦は自分の座っている影に、形容し難い生き物が居るのではないかと思いたじろいだ。
「類は友を呼ぶ。影女が居ると色んな妖物が集まって来るんだ」
半ば諦めたような表情で、謙吾は呟く。
行彦は訊く。
「実害は?」
「……風呂上がりに穿いたトランクスから、ザリガニみたいな妖物が這い出したことがある。……痛かったよ」
謙吾の恐怖体験を想像して、行彦はゾッとした。
「あの娘、家のことを色々してくれるんだろ?」
行彦の問に、謙吾は頷き呟く。
「悪意の無い善意って難しいよ」
謙吾が乾いた笑いをし、行彦は幸か不幸か分からない状況に同意していると、影女の少女が慌てたように氷水の張った洗面器とタオルを手に障子を音もなく突き抜け、部屋へと入って来た所だった。
噂をしていたところへ、突然の乱入に肝を冷やす二人を余所に、影女は状況が分からずに首を傾げると、笑んだ。
それは、慈愛に満ちた花笑みであった……。
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