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「生真面目な奴だよな」
少年は呟く。
机の上にあった写真を見た。自分と親友が写っていた。中学生の時に修学旅行で撮ってもらった写真だ。新幹線をバックにピースサインを決めた二人が写っていた。
少年は親友のことが好きだった。
同性愛という意味ではない。人間として人として好きだった。血の繋がらない他人ではあるが、こいつと兄弟だったらどんなに嬉しいだろうかと思う程に親しみを感じていた。
だが、それは突然終わった。
少年は写真を置くと、迷うこと無く押し入れを開き、闇に手を伸ばす。
見えなくても、そこに何があるかを少年は知っていた。
掴んだ。
嬉しくて少年の顔に笑みが浮かぶ。
少年の手の導きによって、一本の太いバットが姿を現す。
バットを手にした少年は、一階に居る親友のことを考えた。今から、これを叩き込むことを。兄弟になりたいとまで思った親友に、こんな気持が生じたのはなぜか。
出来事は、ほんの数分前の出来事であった。
親友とTVゲームに興じていた際、少年はトイレに立った。その帰路で少年は家の中で一人の少女に遭った。
あの少女に会って、少年の中に生まれた。
憤怒の狂気が。
「ねえ、行彦」
健やかなミュージックが流れる中、少女・沙織は少し気恥ずかし気に訊く。囁くようなウイスパーボイスと沙織の可愛さに、少年は声が上ずる。
少年は、思春期を迎えながらも、まだ幼子が持つ快活な様子を持っていた。
物事に拘らない元気さというものは、年齢と共に落ち着きを見せ、やがては大人という雰囲気に至るのだが、この少年の場合はその様子は見られない。
痩せ方ではあるが筋骨がしっかりしており、闊達な性格は面差しも現れていた。
少年の名を取手行彦といった。
「な、何だい」
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