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行彦がバットを振り下ろそうとするのに対し、謙吾は指摘する。
「違う! 行彦、後ろだ!」
「え?」
行彦は振り上げたバットをそのままに、後ろを振り返る。
背後に少女が居た。
少女は小さな唇を真一門字に結び怖さに震えながらも顔を紅潮させ、勇気を奮い立たせているのが分かった。
行彦は、丸い闇が自分に襲いかかって来ているのを見た。
フライパン。
――だった、と思う。
パン
芯を捉えた音を聞いて、行彦の意識は闇に落ちた。
それからのことを行彦は憶えていなかった。
ただ、暗いまどろみの中で謙吾が普段の落ち着いた様子ではなく、慌てふためき、混乱し右往左往しているのが伝わった。
天井が見えた。身体を動かすと誰かが気がつく気配があった。
「行彦、大丈夫か」
仰向けに倒れている行彦を、謙吾が死にそうな顔をして覗き込む。行彦は寝起きが悪い返事をしながら身体を起こしていく。
「大丈夫か。まだ横になって方が良いって」
「平気だ。俺は石頭だからよ」
謙吾の心配を、行彦は傷みを堪え安心させるように言った。
部屋を見回すと、少女が正座をして、しょげているのが見えた。傍らにはフライパンがあった。
「行彦が持っていたのは空気で膨らませたビニールバット。本気で僕を殺す気なんて無かったんだよ」
謙吾は少女を叱ると、少女は益々しょげて小さくなる。それを行彦がなだめた。
「謙吾。女の子に、そんなに怒るなよ」
「怒るなって……。間違えたら、お前死んでいたんだぞ」
心配する謙吾に行彦は少女に声をかける。
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