影女は花笑む

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 暗闇に、音がした。  苦しげな音。  いや、助けを求める悲鳴だろうか。  良心のある者なら、その不協和音に戸惑いをみせただろうが、少年は構うこと無く、もう一歩を踏み出す。                  ギシッ  階段は踏みつけられ、また苦悶の音を上げる。  少年は、階段を一歩登るごとに、時間が現在ではなく未来にいるのではないかと思った。  この階段は、絞首刑を行う絞首台へと登る13階段ではなかと。  少年の口元が裂けるように、ゆっくりと広がる。唇から現れる白い歯が闇の中で異様に光っていた。  横隔膜が痙攣し密やかな笑いが溢れた。  悲しくて。  もし、絞首刑がなされているとすれば自分の犯行が完遂されたということ。その罪で絞首刑になるのならば、少年にとってそれは本望だ。  生きたくないから。  少年は頭部を両腕を身体を重力に身を任せていた。まるで、未練を残した死者が墓から這い出たようにも見えた。  夜の階段ではあったが、照明は必要は無かった。子供の頃から何度も遊びに来ては、泊まり遊んだ間柄の親友の家だ。きしむ階段を登りながら少年は親友との時間を思い起こす。どうやって友達になったのか憶えていない。気がつけば少年の隣に友がいた。  住んでいる地域が一緒だからだろうか、小学校、中学校とクラスが違う時もあったが、親友であることはいつも変わらなかった。  少年は、階段を登り終えると狭い廊下を進む。  部屋に繋がる引き戸が幾つかあったが、少年は見向きもせずに、ある引き戸の前に立つと開いた。  六畳の部屋に勉強机とカラーボックスの本棚が2つある簡素な部屋だ。壁にはカレンダーに学校の時間割が貼ってある。机の上を見ると、数学Ⅰの教科書とノートが雑然と置かれ、勉強の跡があった。月曜の授業の後に小テストがあるので、その対策を行ったのだろう。
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