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「何急に、兄さんそういう話全然しないじゃん」
既視感がすごくて、ちょっと呂律がまわらない。兄さんは酔ってぽやっとしたまんま、ねっとりと怠そうに「いや、なんかさぁ」と言った。
「最近入った秘書の女の子に、俺がなんとかって俳優に似てるって言われたんだよ。でも俺全然そういうの知らねぇからさぁ、ふーんて思ったけど、なんか今思い出しただけ。お前らと同じ年くらいのやつらしいから、お前ら知ってるかなーと思ってさ」
「はぁ。名前は?」
「それが思い出せねぇんだよー、たしかさぁ」
兄さんが絞り出した下の名前を聞いて、反射的にその俳優だか歌手だかの名前を返してしまった。
まさにさっきカノジョと話してた、同級生のそいつの名前だったから。
「ああ、やっぱ知ってんだ、似てるかそいつと?」
兄さんは頬杖をつきながら俺を見ている。正直あんまり似ていない。似ているとすれば少しボサっとさせた髪型と、キレながい目くらい。
「女に言われたこと気になってんの?」
旦那一筋の兄さんが珍しい。すると兄さんは急に真顔になって「あいつが何かの拍子にそいつのこと知って、気にし出したら癪だから」と言った。嫉妬ですか、なるほどね!
「似てないよ大丈夫、そいつより兄さんの方がかっこいいって!」
笑いながら背中を叩いたら、思いっきりメンチ切られた。
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