scapegoat

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「でも俺、こういう感じ全然好きじゃねぇんだよなぁ」 カノジョは呟くように言った。 「えっ、何が?」 聞き逃すわけがない。でも、そんながっついてませんって感じを演出するように、また大袈裟に首を傾げた。 カノジョは雑誌に視線を落としたまま、軽く唸った。 「何って言われるとアレだけど、なんか全然隙がない感じしない? 服装とか雰囲気のせいかなぁ」 言いながらパラパラとページをめくる。 「ほら、こういう感じ。なんかシックで、上品な感じがさ」 指差したのは、黒い椅子に手をかけながら黒いスーツ姿でカメラ目線を寄越す写真だった。 「まぁ、黒いしな」 上品な感じと言われればそんな気がしなくもないけど、カノジョ自身からも上品さが滲み出ていることを自覚していないらしい。 もっとも、和テイストが似合うカノジョとは、全く質の違う上品さの写真ではあるんだけど。 「俺は余裕があるほうが好きだからさ」 俺を見て、お前みたいに、と笑いながら言った。俺は余裕どころかガバガバなんですけどね。 「包容力あるからね俺は」 得意げに胸を張ると、雑誌を閉じたカノジョにゲラゲラ笑われた。 「包容力って言葉をお前から聞くと思わなかったわ」 「今漢字で書けって言われても書けないけどな!」 「何で漢字が出てくるんだよ」
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