scapegoat

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いつもの店はその一角の雑居ビルの2階にあって、建設現場みたいな鉄筋の外階段から上がっていくスタイル。 錆っぽく加工した縦長い引き戸を引っ張ると、途端に洪水みたいなジャズの音が溢れた。通い慣れた店。デカい音にもすっかり慣れたもんだけど、俺と付き合い始めてからこの店に来るようになったカノジョは、しょっちゅう顔をしかめていた。 「よ」 すでに飲んでた兄さんって声を掛けると、指輪の光る左手を軽く上げて言った。 入ってすぐのカウンター席の角が、いつもの俺らの席。指定してるわけでもないのに、不思議と空いてる確率の方が高い。躊躇いもなく隣に座り、カノジョもその隣に座る。 「旦那は?」 こんにちはとか遅れてごめんとかより先に聞く。兄さんはほとんどからのグラスをあおって、今日はジムと言った。 「さすが旦那、鍛えに行ってんだ」 「そうそう。一回行くと最低でも3時間は帰ってこねぇんだよ」 「ながっ! 兄さんも行けばいいじゃん」 「行かねぇよ、そんなに付き合ってられっかっての」 顔が渋る。俺も勘弁だけどさ。兄さんの視線はカノジョに向いた。 「悪いな、付き合わせて。こいつとだけ話しててもつまんねぇし」 「なにそれひどい!」 即座に返す俺に対して、カノジョは苦笑いするだけだった。 【次回は5日更新です。】
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