scapegoat

82/106
157人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
じゃあそれに被せて話するしかなくない? 「そうなの! こいつが俺のライバル! いやライバルですらないけど!」 ちょっと声が裏返った。席を立つ勢いで言ったけど、他のメンバーがシラッとしてるからすぐに収まる。 「いい男じゃん。昔っから?」 「そんなに目立ったような感じじゃなかったですけどねー。なんか変な感じ」 カノジョと兄さんは、ライバルがどうのっていう俺の話すらなかったことにしそうな空気を醸す。 テレビの中の男はきゃあきゃあ言われながら涼しげに微笑んでいる。鼻息荒くしている俺とは大違い。 番組の今日のテーマは「初めて言う秘密」だそうだ。 「えーなにかこうありますか、初めて言う秘密って?」 司会のお笑い芸人が、さっそくそいつに話を振る。兄さんたちの視線がテレビに向いていたから、ついつい俺も見てしまう。 「初めて言う秘密ですか? なんだろうなぁー」 緩慢な動作で軽く足を組みながら首を傾げる。めっちゃ悔しいけど、その仕草の一つ一つが確かに洗練されていてかっこいい。 「そうだなぁ、これマジで初めて言うんですけど」 イケメンのそういう前置きは大抵スベる。俺はビールジョッキの取っ手を握って鼻で笑った。 やつは俺の鼻で笑った様を知っているかのように、ニヤリと笑った。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!