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私が挨拶を返すと、両親は一層嬉しげに顔を綻ばせました。母が張り切ってベーコンに胡椒を振ったからでしょうか、私は不意に鼻がむずむずして、急いで手で口元を押さえました。けれど、くしゃみは止められず。「くちん」と小さく音を漏らしてしまうと、途端に二人が顔色を変えました。
「大変だ! 真桜、寒いのかい!?」
「まぁ、なんてこと! 風邪かしら。学校お休みする!?」
大慌ての両親に、私は瞬く間に毛布に包まれ、体温計を口に突っ込まれてしまいました。
……これです。見ての通り、彼らは一人娘である私に甘々且つ、過保護なのです。変な夢の事など話そうものなら、きっと過度に心配して病院に連行されかねません。
私は体温計を口から引き抜きながら、努めて平静に告げました。
「大丈夫です、二人とも。胡椒で鼻がくすぐられただけです」
「そう? でも……」
「本日もすこぶる元気です。風邪のかの字もありません」
ほら元気、と二人を安心させるようにガッツポーズを取ってみせます。本当は笑顔を見せてあげられれば一番なのですが、どうも私の表情筋は固くて、感情に反していつも微動だにしてくれません。
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