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幸せの絶頂
「うん。明日の資料はこれで良いよ、ありがとう」
薮内が千奈(ちな)の作った資料を見てそう言った。そこで今日の業務は終了だ。
「お疲れ。急に打ち合わせが決まったから、対応してもらえて助かった」
「いえ。これくらいは直ぐに出来るので」
にこりと微笑むと、薮内も安心したのかほっとした表情になった。
業後、二十一時過ぎ。出先から薮内が返ってくるのを待っていたら、得意先から戻って来た薮内が至急頼む、と言って明日の資料の作成を依頼してきた。薮内は営業一課でも優秀な成績を収めている営業マンで、得意先が沢山ある為、千奈がその帰りを待って残業することはざらだった。もっとドライに、明日報告を受けたら? という同僚も居るけど、こんな緊急の事態の為に残っている。薮内はコキコキと首を回して疲れを取ると、帰ろっか、と千奈を促した。
「どうする、飯食ってないだろ」
薮内が既に外したネクタイを鞄に仕舞いながら言う。会社の入っているビルの出口を出て通りを歩いていると、まだ明日一日あるのに既にご機嫌な人たちが行き交っていた。その雰囲気にのまれても良いなと思って、千奈は、ご一緒できるんでしたら、是非、と答えた。
「いつもの所でいい? 何か食べたいものがあればリクエスト聞くけど」
「食後にデザート付けてください」
千奈の言葉に薮内はははっと笑った。
「そのくらい全然かまわないよ。なに? ケーキ?」
「暑いからドルチェを」
「オーケー、オーケー」
笑いあって賑やかな街の中を歩いていく。今日も、いい日だ。恋人とこうやって何気ない時間を一緒に過ごせることは、千奈にとってもう当たり前の幸せになっていた。
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