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 由美子が結婚をするそうだ。僕と由美子との共通の女友達から聞いた。  別れてから約一年が経っていた。別れたとは言っても、僕が一方的に振られたのだ。  原因は、多分、僕の将来性が問題だったのだろう。  僕は小さな会社に入って、毎日残業をしていた。それでも、給料は大したことがなかった。由美子は当初は気にはしていなかったが、仕事仕事と繰り返して会えなくなった割には給料も上がらなかった。むしろ、由美子の方が給料が良かった。見かねた由美子が僕に転職を勧めたのだが、これと言ったスキルの無い僕が、やっと入る事の出来たのが今の会社だった。辞めてすぐに次が見つかるか不安だった。  そんな自信の無い僕に由美子がうんざりしたのだろう。  電話が架かって来て、「孝史さん、わたしたちもうおしまいね。もう連絡しないで」と言われた。僕の部屋の合鍵を作ってほしいと言われていたので、作ったばかりだった。「でも、合鍵を作ったんだけど……」「そう。もう知らないわ。捨てちゃえば? さようなら、加藤孝史さん」それが最後の会話だった。  完璧に振られたと思った僕は、由美子を追いかけるようなことはしなかった。本当は追いかけて、説得して、強い男になると宣言できれば良かったのかもしれない。しかし、それが出来るような男ではない事を、僕自身が一番よく知っていた。  由美子の結婚を知って、僕は旅行に出ようと思った。傷心に秋が良く似合う(某文豪のパクリみたいだ)。どこか景色の良い所にでも行けば、やり直せそうな気がしたのだ。もっと自分に自信を持って行動出来そうだ。  僕は駅の旅行案内センターに行った。そこには色々と紅葉が綺麗なパンフレットが並んでいた。その中の一部を手に取った。直感的にそこに決めた。すぐに受付で手続きをした。出発はシルバーウィークの始まる土曜日だ。
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