ラヴレター

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ラヴレター

『 12月5日(日) 今、あなたは何処にいますか? 』 午後11時過ぎ、今日も私は日記を書き始めた。毎晩11時に、その日に起こった出来事を日記に書くのが私の日課だ。ブログのように、誰かに見せるような洒落たモノではなく、自己満足というか、手帳にペンで書き込む昔ながらのヤツだ。下書きをしない為、間違えれば2重線で消すので、そこまで見映えの良いモノではない。几帳面な性格の私は日記を書き忘れたという日なんて無く、短くても必ず毎日書いている。 『 今日もとても寒くなり、あなたの身体が心配です。まだ、海の上でしょうか? もしかすると、何処かの無人島にでも上陸しているかも知れませんね。 』 日記と言ったが、ここ最近は彼女へのラヴレターのような内容になっている。今後、彼女へ見せる日なんて来る事は無い。自分の思いを書き綴っているだけなのだ。 彼女は20代前半に見える、色白の小顔美人で背が低くスレンダー。少し赤みがかったウエーヴの長髪。恐らく天然パーマじゃないだろうか。 彼女を初めて見たのは、まだ暑さの残る9月末頃だったと思う。何か特別なインスピレーションを感じた。私が彼女とデートをする最後の男性になりたいと強く願った。 結婚なんてバカな考えは微塵も無い。どうして一般人は結婚なんてモノをしたがるのか理解に苦しむ。そのくせ、浮気だの不倫だの別の人を好きになる。「付き合う前が1番楽しかったわ」とか言うのをよく聞くが全くその通りで、儚いからこそ恋愛は素敵なのだ。 私は、とにかく無口な女性が好きだ。どんなに美人でも、女というヤツはベラベラと無駄話をしたがるので、どうも好きになれない。恋愛というのは雰囲気が1番。同じ空間を共有するだけで充分だろう。 『 あなたに会えなくなって早1日半。少し淋しくもありますが、私は今日も変わらない日々を過ごしました。それでは、おやすみなさい。 』 翌日12月6日月曜日 週明けの仕事を無事に終わらせ、いつもと変わらない帰宅となった。先週と違うのは彼女に会えていないという事だけ。 食事の後に入浴をし、テレビを見ながらポテチ等のお菓子をつまみに缶チューハイを1本だけ飲む。毎日のルーティーンだ。 午後10時50分 私は手帳を開いた。彼女が恋しくなり、せめて文章だけでも彼女の事を思い出せたらと、パラパラと過去のページをめくる。 『 12月4日(土) 今、あなたは何処にいますか? もうすっかり冬ですね。ニュースでは、夜には雪が降るかも知れないと言っていましたが、この辺りでは降らなかったみたいです。あなたのいる場所はどうですか? 今日のドライヴデートは楽しかったです。私達2人に会話なんて必要無いですね。また一緒に居られたらと思いますが叶わない夢なので……。 そう言えば、あなたに付きまとっていた男の心配は要りませんよ。もう出会う事は無いと思うので安心して眠ってください。それでは、お休みなさい。 』 私は隣のページに目を移す。 『 12月3日(金) 仕事終わりにホームセンターに寄り、包丁とスーツケースを2つずつ購入した。バラバラにすればスーツケースに入るだろう。高い買い物をしたのは久し振りだ。決行日は明日。男の方は山奥に捨て、彼女とはデートを楽しんだ後、海で別れようと思う。 』 時刻は午後11時を回ったようだ。私は今日のページを開き、日記を書き始める。 『 12月6日(月) 今、あなたは何処にいますか? 』 了
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