拾う少年

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学校は町の高台にあった。 今まで登校する際は、坂だらけで非常に不便だと感じていたのだが……今は逆にそれに感謝した。 市立中央病院がある街中までは、えんえんと下り道。 自転車は物凄い勢いで坂道を下って行く。 「なあ、高郷。一体それは何なんだ?」 ブレーキを握りながら、後方の彼へと尋ねる。 「……僕にもはっきりした事は解らないんだ。例えるなら、命、とか」 ぽつり、と彼が呟く。 腰に回された手と、背中から高郷の体温を感じる。 「その変な卵みたいなのが、人の命だって?」 「それに近い物だと思う。 あるいは生命力、とかそんな類のもの。今朝拾ったんだ、本永が倒れたっていう道の上で。早くしないと、光がどんどん小さくなっている」 発光が弱々しいと感じたのは、どうやら気のせいではないようだ。 「その光が消えたら、どうなるんだよ?」 半ば解りながらも、僕は高郷に尋ねた。 案の定、帰ってきた答えは……。 「多分その持ち主は、死んじゃう」 僕の漕ぐ自転車は、記録的な速さで病院の駐車場へと滑り込んだ。 僕は体力の限界で地面へとへたり込む。 「行け、高郷!」 強く頷いて、彼は病院の中へと駆け込んでいった。 後の話は人づてにしか聞かなかったのだが……。 高郷が病室へ駆け込むと、そこには人工呼吸器が取り付けられ、虫の息の本永。 周りが突然の珍客に戸惑い静止しようとするのを振り払い、彼は弱々しく光る『何か』を本永の胸へと、心臓の辺りへと押し込んだらしい。 手の中に有った筈の球体は、まるで溶け込むように本永の体へと吸収されていった。 唖然と見守る病院関係者や、親族の目の前で、瀕死だった筈の少年は次の瞬間ぱっちりと目を覚ましたそうだ。 今さっきまで、確実に死の淵を渡ろうとしていたのに。
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