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あいつは高郷のお陰で命拾いした」
「やっぱり高郷には不思議な力が有る」
そういう噂が流れた。
だが肝心の高郷はあまりそれを気にしたり、鼻にかけたりする風も無い。
騒動が一段落した頃、僕は高郷に聞いてみた。
「なあ、高郷……君が拾ったあの『命、みたいな物』ってよく落ちているのか?」
彼は一瞬戸惑いながらも、頷いた。
「誰にも言わないでね。君にだけ話すから」
人は事有るごとに、何かを落とすんだよ。
それは小銭とか、鞄とか、ボタンとか、物だけじゃない。
えっとね、悲しいと涙を「落とす」でしょう?
綺麗だよ、落ちている「涙」って。
雫とか液体じゃないんだ、こうシャボン玉みたいになって薄い薄いガラス玉みたいになって、その中に様々な色を閉じ込めて、町のあちこちに転がってる。
涙を落とす事によって、救われている人も多いみたい。
心も「落とす」ことが出来るんだよ、落としたほうがすっきりするモノなんだと思う。
落し物ですって警察に届けて、持ち主が見付かって、その涙を思い出したら……その人はまたきっと苦しくなっちゃうでしょ?
だから僕はアレ、拾わない。
拾っても、またその場所に戻す事にしている。
後ね、命を「落とす」こともまれじゃない。
あの卵ね、実はたまに見つけるんだ。
持ち主が解らない場合が多くて、結局僕は光が消えてしまうのをじっと見守るしかない。
庭にね、光の消えた卵達のお墓を作ってあげてるんだ。もうどれだけ埋めたかわかんない。
たまに、思う。
どうして僕はこんなに変なものばかりを見つけてしまうんだろうって。
拾ってしまうんだろうって。
「たまに、思って、苦しくなっちゃうんだ。」
そう俯く高郷の頭を、僕はぐしゃぐしゃに撫でた。
「でもさ、高郷が本永を助けたんじゃないか。高郷があいつの命を拾って、見つけてやったから助かったんじゃないか」
そう、周りが噂していた「本永は高郷のお陰で命拾いした」
あれは真実なのだ。
本永の命を、高郷が見つけて拾った。
だから彼は助かったのだ。
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