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「恐らく気に入ります、か。そう呼んで欲しいということかい?」
「はい、その通りですDr」
「そうか、じゃあ決まりだね。リリィよろしく」
今だ離れた胴体の腕に手を伸ばすと、手の平が延びてきて私の右手を優しく握った。
リリィの表皮は、冷たいが滑らかで気持ちの良い肌触りだった。
「Drは変人だと村の人々が言っていました」
リリィとの共同生活は2週間目に突入しようとしていた。
人の殺し方と、数十カ国の言語は知っていても、リリィは掃除や調理といった家事全般が出来ない。資料整理や基本的な機械知識もさっぱりわからない状態で、仕事のサポートをさせるにも家事をさせるのにもゼロから叩き込まねばならなかった。
仕方が無い。リリィは軍事用ロボットなのだから。
それでも一を聞いて十を知る事は無いが、一度聞いたこと、教えたことは決して忘れない。
ロボットとは、そういうモノだ。
記憶した事は決して忘れない。
だから私とした会話も、三日に一度村に買出しに行く際に村人達と交わした会話も、リリィは一言一句全て覚えている。
「私が変人?」
思わず咥えていたパイプを口元から外して、リリィを見つめた。
「はい、そうですDr。一日中機械をいじくりまわして、人とあまり付き合いたがらない。髭も髪も伸び放題で、家族も居ないようだし―――」
「わかった、わかったからこれ以上の報告は止めてくれリリィ!」
げんなりして遮ると、「はい」とリリィは押し黙った。
やれやれ。
確かに引きこもりの隠遁生活ではあるが、そんな風に見られていたとは。
私の様子を見て、リリィは瞳を細めた。
「Dr、今とても困った顔をなさっています」
「困ったというか、凹んでいるのさ」
「……こういった事は報告しない方がよろしいのですか?」
「できればそうしてほしいなリリィ。陰口というのは聞いていてあまり気持ちの良いものではないから。特にそれが自分のことなら尚更ね」
「了解しました。陰口もその報告も、しない方が良いんですね」
「うん。まぁ君が人を悪く言うとは思えないけどね」
「ええ、そうですDr。僕はロボットですから、人の悪口を言うような設定はされていません」
自分を『ロボット』と自覚しているリリィだったが、その行動は明らかに普通のソレとは異なっていた。
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