リリィ

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それは近くの村民から頼まれたトースターの修理をしている時だった。 長年愛用されていたのだろう。元の色が判別出来ないほどに、メッキがはげ黒光りしていた。 分解しようとしていた最中、古びた螺子の先端が私の指先を少しかすった。 じわりと血が滲む。自らの不注意に軽く悪態を付いた私の手を、いきなりリリィが掴む。 「リリィ?」 訝しむ私をよそに、リリィは全く持って予想外の行動に出た。 パクリと、私の指を己の口に咥えたのだ。 「………一体何のつもりだい?」 一瞬何がどうなったのかわからなかった。ぽかんとしながら尋ねると、リリィは首を傾げ答えた。 「いえ、指が出血した時はこうするものだと。違ったでしょうか?」 「……こうする物ではあるけど、いったいどこでそれを?」 「パン屋の女将さんです。彼女、いつも高温釜を使うせいか指先にケガをしているんです。それで出血した際に、指を咥えていました」 とりあえず、出血した指を口に含むのは本人だけだ。 血液の付いた指を他人の口内に入れるのは、衛生面的に非常にヤバイと教えておいた。 食事をしないリリィの口内には唾液腺も無いし、湿り気もないので雑菌の心配はないだろうけど。 軍事用のAIが、人の怪我を気遣う。……気遣い方は大きく異なってはいたが。 明らかに、リリィは普通では無い。 成長していた。 人の行動を見て学習し、誰に何を命ぜられなくても、学習したことを実践する。 明らかに「成長」だった。
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