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「最近の若い娘は失恋すると髪を切るのでしょう? 水脈ちゃんは恋に破れてばっかりなのかしらね?」
濡れ縁に置かれた丸椅子にちょこんとすわった祖母は、私を見上げてそう問うた。
「お婆ちゃん、最近っていうか……その感覚は随分古いかも」
失恋はした事が無い、と言えば嘘にはなるが、そう度々と思ってもらっちゃ困る。
「あら、そうなの? そうよねぇ、水脈ちゃんは可愛いものね、お婆ちゃん変なこと聞いちゃったわね。でも水脈ちゃんの髪、あんまり短いんですもの」
思わず私は自分の髪に手をやった。
ベリーショート。確かに短いっちゃあ短い。
「最近はそういう髪型が流行りなのかしら?」
「う~ん。流行とかも有るけど……。若い子は服を着替える感覚で髪を切ったり、パーマ当てたり、染めたりしてるんだよ、お婆ちゃん」
細い節くれの様な首にタオルを巻き、ピンで留める。
「はぁ、そうなのぉ。確かにテレビでは赤やら金色やら、外人さんみたいな髪の若い子よく見るわね」
「そうだよ、緑とか青とかね、今は色々カラーリングもできるんだから。はい、お婆ちゃんシート被せるよ」
実家の押入れから見つけた子供用の散発セット。
子供サイズの水色のシートは少し小さいかと不安だったのだが、祖母にはあつらえた様にピッタリだった。
……いや、きっと祖母が小さくなったのだ。
部屋の中から運び出してきた大きな姿見。
それを覗き込んで彼女は眉間に皺を寄せた。
「なんだかお婆ちゃん、水色のテルテル坊主みたいじゃない?」
その表現に思わず噴出した。
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