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鶏肉100グラム85円だったものだから
※クリスマスの時の話です。
愛
白い雪
愛
あなたとわたしなのだ
雪
六角形
手を繋ごう
きっと今夜は寒いから
(鍋かな?)
(キムチ多めで、ネ)
そして今夜は二人だから
空を見上げようか
それとも電話を気にしてみる?
古い友人からふざけた言葉を聞くために
でもきっと
そんなことは途中で良くなる
わたしはあなたとキスをするから
もしかしたら電話越しの彼がくるかもだけど
あまりそれはいわないほうがいいね
絵柄にすればとても気持ちが悪いもの
想像なんてしないでよ
たんなる隣の家の話として聞いてくれ
そうだ、これは
普遍でつまらない物語
愛
白い雪
愛
あなたとわたしなのだ
雪
六角形
手を繋ごう
きっと今夜は寒いから
愛
あったまろう
そんな時には
やっぱり、
鍋!
【鶏肉100グラム85円だったものだから】
鹿児島だって冬は寒い。尿意を覚えてぶるん、と尾上は身震いをした。万丈食料品店の店じまいは7時と早いが旧式のシャッターを閉めるのは体力がいる。火かき棒のような物をシャッターに開いている穴に突っ込んで思い切り引く。コツはとにかく勢いである。オラ、とドスのきいた低音ボイスを吐いてシャッターを閉める尾上は、地面とシャッターがぶつかる寸前に見えた革靴が気になった。しかし勢いは止まらずに、シャッターの着地点に突き出た革靴は哀れ、直撃した。
「痛いよう、なんだいあんまりじゃないの。俺はね、わざわざお前達に寒い中会いに来たのにさあ」
「お前が馬鹿だからだ。俺のせいじゃねえぞ。…大体な、気味が悪いんだ。その顔」
「え、どの顔」
「お前の顔だ」
「いやだよう、元はといえば尾上クンの顔じゃないの」
自分の顔がにへら、と笑うのにイラッ、とする。ともかくすごくぶん殴りたい。趣味が悪いネクタイ、よれよれの灰色のスーツ、ツンツンとした髪の毛。自分と瓜二つの顔がこたつに入っていた。尾上に兄弟はいない、だからこれは作り物である。中身の男は笠松という。昔の腐れ縁だ。お土産、といって渡されたのは東京バナナだった。
「…俺がこんなもん食わねえって知ってる癖によ」
「お土産ってさ、気持ちなんだよ。どう、元気してるかい」
「まあ、な。お前は」
「まあ、ね。まあまあだよね。人生まあまあ。それなりにやんちゃもしてるけどそれなりに普通だねえ」
「お前が普通って言うのが気に食わねえ」
「相変わらず変な男だよね、尾上くんはさあ。万丈クンはどこ?」
「お袋さんを送りに行ってる。今日は万丈の兄貴がやってる居酒屋でカラオケ大会なんだと」
「うわ、平和」
「うるせえ、帰れ」
「いやん」
くねくねと気持ち悪い行動を良くとるもんだな、お前は。そう言いながら尾上は自分の頬が微かに緩んでいるのを感じた。久しぶりだなあ、元気していたか。俺の罪を被らせてすまんなあ。悪行を行ったのは俺なのに、俺の姿をして、今も昔の俺のようにやっているお前には感謝しているんだ。それは本当に。なんて言える訳がない。何故なら尾上はそんなことを言う男ではないからだ。
悪態をつくので精一杯なのである。線香臭い居間で二人はこたつに入った。うんと、気まずかった。
掛け時計が8時を音で知らせる頃、軽トラが駐車する音が聞こえて、裏口から作業服を着た若い男が入ってくる。あれ、と奇妙な場面に声を上げた。
「夢かな。尾上さんが二人に見える」
「そうだよ、これは夢さ。どうだ万丈、夢ついでに3Pやるか」
「おいてめえ」
「やだあん、そんな怖い顔しないでよ」
「俺はそういう冗談が嫌いなんだ」
「尾上くんの嘘つき、いつでもどこでもぱこぱこしてたじゃないかあ」
「…」
限界だ、額に浮かぶ青筋がぷちん、と切れた気がする。よしぶんなぐろう、とこたつから足を出した時、万丈が笠松さん、と驚いた声を出した。その手にはスーパーの袋が握られていた。
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