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告白の終わり
「先生、私の話は終わりです」
私は息を吸って言いました。
「あの後、どうなったのか覚えていません」
頭の中には渋谷のスクランブル交差点の光景がフラッシュバックします。たくさんの人の顔が思い浮かびます。得体のしれないバケモノを見る表情です。警察や病院で何度もこの話をしましたが、いつも、私は恐怖に震えました。今日も話を終えた後、息ができず、窒息しそうな気分でした。もう、私の人生は終わった、何もかも、消えてしまえばいい。でも、恵美さんとの関係が終わって、楽になった。そう考えていた時。
「美由紀」
私の背後から、ずっと追い求めた声が聞こえました。振り返ると女性が立っていました。恵美さんでした。
いつから、そこに居たのでしょうか。話をするのに夢中で、恵美さんの存在に気づきませんでした。恵美さんは皮肉っぽい表情を浮かべて、私に言いました。
「美由紀、楽しい話をありがとう」
「どうして、ここにいるの」
私が言うと、恵美さんは私の傍に近づきました。
「私の事をまだ、好きでいてくれるの」
恵美さんの問いかけに私は軽く頷きました。恵美さんは先生に軽く会釈をすると、
「美由紀、迎えに来たよ」
と私の手を取りました。
私はあんなことをして家に帰れるとは思っていなかったので、思わず先生を見ました。先生は優しい表情をしていました。何かしゃべっていましたが、理解ができませんでした。
「美由紀は悪い事はしていないわ、人を傷つけたわけではないし、ちょっと、みんなを驚かせただけ」
恵美さんの言葉は頭に入ってきます。恵美さんを辱めようとした私を許してくれるのでしょうか。恵美さんはあの男より私を選んでくれたのでしょうか。
「どこに帰るの、恵美さん」
私は問いかけました。
「決まっているじゃない、私の家よ」
恵美さんの返事を聞いて、うれしくて涙が止まりません。本当は、これから、また、地獄が始まるのかもしれない。
でも、恵美さんが戻ってきてくれたという喜びを今日は楽しもうと思いました。また、次の告白ができるまで、恵美さんの後を付いていこうと思いました。今度はどんな告白になるのでしょうか。
私の胸は高鳴りました。
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