ペンペンが語る 慰安婦物語 第二章 福沢諭吉

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明治18年1月、福沢諭吉はもう1冊の本の執筆をしていた。『品行論』というタイトルだった。 娼妓の利害に就いては今更これを論ずるもの少なく、所謂道徳家の所望に任ずれば無き方が宜しと云ふは勿論のことなれども、人間世界は道徳のみの世界に非ず。(中略)其業たる最も賤しむ可く、最も悪む可くして、然かも人倫の大義に背きたる人非人の振舞いなり。(中略)我輩は娼妓を廃せんとする者にあらず、却って之を保存せんと願う。(中略)深く之を隠すの注意なかる可らず。(中略)仮に今、人間世界に娼妓を全廃して痕跡おもなきに至らしめん歟、その影響は実に恐るべきものならん。(中略)人間社会には娼婦の欠く可(べか)らざるは衛生上に酒、煙草の有害を唱へながら之(これ)を廃すること能(あた)わざると同様にして、経世の眼を以てすれば寧(むし)ろ其(その)必要を認めざるを得ず。(中略)海外の移植地に娼婦の必要なるは右の事実に徴するも甚だ明白にして、婦人の出稼は人民の移住と是非とも相伴ふべきものなれば、寧ろ公然許可するこそ得策なれ (翻訳) 遊女(娼妓)によるメリットとデメリットに関して論じているものは、(今の日本では)あまり多くないが、一般的に道徳的とされる人々がなくなるべきと言うのは当然であろう。しかし人間社会は道徳だけで成り立っているわけではない。(中略)ただ遊女(娼妓)という職業についている者は最も賤しく見苦しい存在であり、倫理性に背くのである。(中略)だからといって私は、これをなくそうとは思っていない。逆にこれが存続してほしいと思う。(中略)妾を養うことも芸者を買うことも隠して行い、表ざたにならないように最大限の注意を払うべきだ。(中略)今人間社会で遊郭を廃止すると、恐ろしいほどの悪影響が出るからだ。(中略)人間社会では酒やたばこも有害と言いながら廃止できない。世の中をうまく回していくためには、同じように、いやむしろ必要なのだ。(中略)海外の移住地に遊女(娼妓)が必要となることもこの事実に照らし合わせれば明白だから、女性の海外出稼ぎは、国民の海外出稼ぎに伴うことだから、公に許可するほうが得策だ  「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言いながら、女性、特に体を売る女性を蔑む福沢諭吉のこのような思想は、自分が紹介した欧米諸国の女性解放思想の中で問題視されず、天皇家を含む日本支配層はむしろ積極的に活用した。それが「からゆきさん」という現象だった。九州の農村部の貧しい女性が女衒(ぜげん、遊廓などでの労働に強制的に従事させる人身売買仲介業)とグルになった現地業者に放り込まれたアジアの遊廓で男の性欲の犠牲になっていたわけで、そのように日本社会でも認識されていたが、事はそれで終わらなかった。アジア以外の国にも日本人女性が売り飛ばされていたのである。  富国強兵を急ぐ日本は、巨額の資金を必要としていた。天皇家を含む日本支配層は、資金調達策の一つとして売春婦販売を画策した。ではどうやって女性たちを集めたか。もちろん「売春婦募集」などとおおっぴらに募集をかけることはできない。女性たちが憧れる職業でなければならない。それが洋裁業であった。今でいうファッションデザイナーである。  富国強兵策においては欧米化も促進された。TVドラマ「おしん」でも、子供服の製造でおしんが成功しかける場面が出てくるが、婦人と子供の洋服は、それまでの和服よりもはるかに利便性が高く、その急速な普及に伴って技術者不足も深刻化した。そこで、洋裁学校の紹介という形を取ると、たくさんの処女が集まった。  こうして騙された処女たちは、日本郵船の船の中に閉じ込められ、船の中で外国人水夫達に毎日強姦されて売春婦として教育される。現地に着いてすぐに売春宿に放り込まれた。世の中を丸く収めるには必要なのだ、現実はそんなものだ、だから女性たちよ、お前たちはお国のために、天皇のために、海外で体を売って来いということだった。それを福沢諭吉が堂々と見解表明し、天皇家を含む日本支配層は「うまく言ってくれた」とばかりにそれを全国展開した。 「売春業なんてはるか昔からある職業だ、どこの国でもやっていることだ、などと訳知り顔で言う人たちがいるけど、違うよね。そのようなことは昔から決してあってはならないことだったんだよね」 と、僕が勢い込んで言うと、ペンペンがきちんと言い換えてくれた。 「どこの国でもやっていることと言うことは、従軍慰安婦問題がここまで大きくなった現在では、その人の民度が低いことを証明するだけなんだよ」  映像が続いた。戦前と思われる頃の女性が現れた。
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